広いストライクゾーンを有効に使った東邦バッテリー=タジケンの高校野球観戦記

田尻賢誉

中盤から広くなったストライクゾーン

 ストライクゾーンが接戦の行方を左右した――。
 立ち上がりは無難なスタート。やや外に広い感じがしたが、甲子園では外角のストライクゾーンが広いのが常識。特に違和感はなかった。清峰高の清水央彦部長も捕手の川本真也にゾーンを確認。特に問題ないという返答を得ている。
 ところが、3回に試合が動き出してから変化が起こる。3回表の清峰高の攻撃から6回表の清峰高の攻撃まで、得点が入らなかったのは4回表の清峰高の攻撃だけ。両校の攻撃が長くなり、ストライクゾーンが広くなった。

 典型的だったのが、6回裏の東邦高の攻撃。前の打席で本塁打を放っている古市治希が先頭打者として打席に入る。カウント2−0から2球ファウルした後の5球目。スライダーは外角に遠く外れるボール球に見えた。実際、甲子園のSBOランプにもボールを表す緑色のランプが点灯した。ところが、桂等球審の右手が上がり、ストライク。古市は見逃し三振に倒れた。
「あれはちょっと悔しかったですね。カットするのには自信があるんです。前の球もカットできていたし、自信を持って見逃したので。見逃し三振ですか? ほとんどないので、いつ以来か記憶にないですね。この夏、初三振ですよ」(古市)
 強打の東邦高打線にあって、つなぎの意識が高い7番打者。愛知県大会から8試合、32打席目で連続無三振がストップした。

見極め困難だった外角のシンカー

 一方で、この広いストライクゾーンを有効に利用したのが東邦高バッテリー。1回戦の北海高戦は5回3分の1で3四球と制球が安定していなかったエース・下平将一だが、この日はストライク先行のリズムある投球。9回を3四球でまとめた(ほかに死球が1)。3四球のうち、ひとつはフルカウントから完全にバットが回ったハーフスイングをノースイングと判定されたもの。実質は2四球といっていい。
「ストライクが取れたので、自分のリズムで投げられました。(ストライクゾーンが広くて)ラッキーでした。自分は基本的に外中心なんですけど、そこを信じて投げられましたから」(下平)
「(ストライクゾーンは)結構広かったですね。リードしやすかった。攻撃でも(古市、小宅広大が)見逃し三振してましたけど(笑)」(捕手・山田祐輔)
 バッテリーは外角のゾーンが広いことを利用して、外にストレート、シンカーを出し入れ。ストレートでストライクの後、同じところからシンカーで落として空振りを奪うシーンが目立った。下平のストレートは130キロ前後。シンカーも120キロ台後半のため、清峰打線は見極めるのが困難だった。

 1回戦の白鴎大足利高戦で本塁打を放ったものの、この試合では9回に外角に大きく外れたシンカーを空振りして三振するなど、すべて決め球のシンカーにやられて1併殺打、2三振に終わった3番の山崎健太郎は言う。
「スクリュー(清峰高側はシンカーをスクリューと認識)は振るなと言われてたんですけど……。打ちにいく気持ちが強すぎて手が出てしまいました」
 6番の青木亮介は最後まで広いストライクゾーンに惑わされた。9回の打席では完全なボール球の外角ストレートをストライクと言われた後、続けて来た同じ球を無理に打ちに行って空振り。外角への意識が強すぎ、2−1からもボール球の外角スライダーを振らされ三振に終わった。清峰高は3、4番で4三振。長崎県大会5試合ではチーム全体で9三振の打線が、1試合で10三振を喫した。

審判もストライクゾーンの確認の徹底を

 球審のストライクゾーンを把握し、下平の持ち味をうまく生かした東邦高バッテリーの勝利といっていい。だが、それだけでは終わらせられない部分もある。多少ストライクゾーンが広いのは問題ないが、試合途中に変わるのはいかがなものか。審判の世界では、2時間で試合を終わらせることのできる人が「うまい審判」と評価されるとも聞く。そのために審判が「早くしろ」と急かしたり、捕手のベルトをつかんで座らせたりすることもあるようだ。高校野球を見ていると、長い試合の後半は急にストライクゾーンが広くなることはたびたびある。清峰高対東邦高戦の試合時間は2時間3分。5対4とある程度得点が入ってのものだけに、審判の世界ではナイスゲームかもしれない。だが、やっている選手はたまらないだろう。昨夏の佐賀北高対広陵高の決勝戦でもストライクゾーンがさまざまな議論を呼んだが、東邦高と清峰高の一戦をさばいた主審は同じ人だった。審判には一定したストライクゾーンを、選手たちには序盤だけでなく、試合途中にもストライクゾーンの確認を徹底してもらいたい。1球の判定で泣かないために……。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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