「凡事徹底」を実行している浦添商=タジケンの高校野球観戦記

田尻賢誉

万が一の準備がしっかりとできているカバー

 すっかり見落としていた。素晴らしいカバーをするチームがあった。それは、浦添商高――。
 2回裏の守備。千葉経大付高・谷勇哉のレフト線二塁打で、ライトの漢那修平はしっかりとレフトと二塁ベースの延長線上に入っていた。最終的にいたのはほぼ一塁ベースの後ろ。そこに来るには定位置からかなり走らなければならないが、漢那は「いつも練習してきたのを自然とやっただけです」と涼しい顔だった。
 さらに、次打者の八坂陸のときの外野手の動きも素晴らしかった。スリーストライク目がワンバウンドになり、八坂は一塁へスタート。ライトの漢那が捕手と一塁ベースの延長線上に入るのは当然としても、同時にセンターの仲里朝樹がファーストと二塁ベースの延長線上に走っていた。これは、二塁走者の谷が走る構えを見せたため。飛び出した谷を刺そうとファーストが二塁ベースカバーのショートに送球する可能性があった。結果的に送球はしなかったが、万が一のときの準備はしっかりとできていた。仲里は言う。
「毎日練習のときからカバーはやっているので。バント処理でサードがファーストに投げて、ファーストが(二塁走者を刺すために)セカンドに投げるときとか、いつもあそこにカバーに行っています」
 いずれも、もし送球がそれたら1点というケース。ボールこそ来なかったが、目に見えないファインプレーと言っていい。

観察眼あった山城の走塁

 6回にはゴロをはじいたセカンド・新田亮がファーストへ悪送球したが、それた送球をカバーに来ていた捕手の山城一樹が直接おさえた。フェンスなどにはね返る前に捕れたのは、しっかりとセカンドと一塁ベースの延長線上に入っていたから。このカバーで余分な塁を与えなかった。
 カバー以外にも山城の動きは素晴らしい。6回の谷の打席では、打った瞬間ファールと分かる三塁側、捕手寄りのボテボテのゴロを猛ダッシュして捕りに行った。8回に久保田真一が三塁後方のフェンス際へフライを打ち上げた際は、サードの仲間常治が捕球したときには三塁ベース付近まで来ていた。1球への集中力、執着心に溢れている。山城は「(自分の)ひとつの行動で周りの気持ちが変わってくると思うので動くようにしています」と言っていたが、間違いなく山城の動きが野手陣にも好影響を与えている。
 山城は走塁でも1点への執着心に溢れる。初回1死二、三塁で斎藤圭祐の暴投の間に二塁から一気に本塁を奪うと、2回2死二塁では再び斎藤の暴投で三塁へスタート。捕手・谷の悪送球を誘って1点をもぎ取った。2回の走塁は斎藤の投球がベースよりかなり手前でワンバウンドするのを見て、一度スタート。一瞬止まったが、谷がはじくのを見てすかさず再スタートを切った。はじいてからスタートしたのでは到底間に合わないタイミング。それだけに、次の塁への意識と準備、判断が光った。
「(1回は)初めからホームに行くつもりで走ってました。(2回は斎藤の握りが)挟んでいるのが見えたので、ワンバウンドもあるかなと思って狙ってました」(山城)
 観察眼もなかなかのものだ。

ベースを通り越すほどの全力疾走

 このほか、浦添商高の走塁で見逃せないのが一塁への駆け抜け。全力疾走するのはもちろん、どの選手もベースを通り越して、土と外野の芝生の境目あたりまで走っていた。ベースまでという意識ではないため、スピードが落ちず、もともと持っている足の速さ以上のスピード感がある。土のグランドで一塁到達4.06秒という驚異の足を見せた新田をはじめ、見ているこちらが気持ちよくなるほどの走り。今大会でここまで走れるチームは皆無。この姿勢とスピードは相手チームに脅威となるはずだ。
 カバー、そして走塁の意識、姿勢。横断幕に書かれている「凡事徹底」を実行している浦添商高が、甲子園を、スタンドのファンを味方につけるような予感がする。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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