プレッシャーとサーブ力の差で崩れた植田ジャパン=北京五輪・男子バレー 日本 1−3 イタリア

田中夕子

イタリアに対する過剰な意識が、プレッシャーとなった

 日本男子バレーにとって16年ぶりのオリンピック初戦、与えられたのは勝利の喜びではなく、手痛い洗礼だった。

 歓喜に沸いた2カ月前の五輪世界最終予選、初戦で対戦したのがイタリアだった。セットカウント2−1とリードした第4セット、24−17とマッチポイントに到達したところからまさかの逆転負け。12人全員が「これまで経験したことがない」と語るほどの悔しさが、その後の勝利を生み出す原動力になったことも間違いないだろう。
 結果として、最終予選ではそこからチームが奮起し、4大会ぶりの出場権を手にした。 また、この悔しい思いをしたからこそ、オリンピック本大会での対戦が決まって以来、選手の多くが「イタリアに勝って(最終予選の)リベンジを果たしたい」と口にしていた。

 どこか特別な感情を抱きすぎていたのかもしれない。

 事実、エースの越川優(サントリー)も、初戦を終えた後にこう言っている。
「“イタリア”ということを意識しすぎていたかもしれない」
 オリンピックのプレッシャー、そして対イタリアへの過剰な意識から生じるプレッシャー。いくつもの重圧が、日本の抱える不安要素を浮き彫りにさせた。

サーブ力の違いが試合を決定付けた

 2チームの大きな違いは、サーブ。
 強烈なジャンプサーブを武器とする越川、石島雄介(堺)、山本隆弘(パナソニック)の3人は、とにかく思い切り、サーブから攻めの姿勢を打ち出す。オリンピックの直前まで開催されていたワールドリーグのみならず、最終予選、さらにさかのぼれば昨秋のワールドカップでも植田辰哉監督は「(ジャンプサーブを打つ)3人はミスを恐れず、思い切り攻めること」と掲示し続けた。

 だが、オリンピック本番で、そのサーブが入らない。
 反対に、イタリアは攻めのジャンプサーブと、攻撃の的を絞らせるために「誰にどこで取らせる」と狙いを定めたジャンプフローターサーブをうまく打ち分け、日本の守備体型、攻撃体型を面白いように崩していく。

 勝敗を決定づけたのは、セットカウント2−1とイタリアリードで迎えた第4セットだった。
 序盤は両者がサイドアウトを取り合い、5−5と一方がリードを奪うことなく拮抗(きっこう)した展開が続く。だが、ここでイタリアのサーバーは15番のビラレッリ。最終予選で24−17からジャンプフローターサーブで日本の勝利を打ち消したあのサーブが、また日本を勝利から遠ざけた。

荻野投入も、止められなかった守備布陣の決壊

 ビラレッリのサーブ時、日本の前衛はレフトが清水邦広(東海大)、ライトが越川。本来はライトからのスパイクを得意とする左利きのオポジットがレフトに入るため、攻撃パターンが限られ、植田監督も「現在最も得点を取ることが難しいローテーション」と危惧(きぐ)する。サーブカットがきれいにセッターの朝長孝介(堺)に返れば、センターを絡めたコンビも機能する。しかし、サーブカットが崩れた時点で、相手側からすればそれだけ攻撃の選択肢は絞られ、ブロックの狙いも定めやすくなる。
 このローテーション時、植田監督が最優先とする攻撃は「ライトからスピードを生かした越川のストレートスパイク」なのだが、清水もレフト打ちを器用にこなせる選手であるため、どのカードを選ぶかはセッターの朝長に託される。

 202cmのビラレッリが高い打点から放つジャンプフローターサーブは独特の軌道を描きながら、日本コートへ。サーブレシーブをしたのは、本来はサーブカットを行わないセンターの山村宏太(サントリー)。朝長はレフトの清水へトスを上げたが、タイミングが合わずイタリアのレシーブから切り返され、5−6。さらにビラレッリが続けてサービスエースを奪い、5−7。流れが、イタリアに傾き始めた。

 さらに中盤、イタリアのサーバーはマストランジェロ。本来は強烈なジャンプサーブを打つ選手なのだが、そのジャンプサーブを警戒したシフトを敷いていることを確認すると、ジャンプサーブだけでなく、コート前方を狙ったジャンプフローターサーブを織り交ぜ、日本の守備をかき乱す。石島に代わって主将の荻野正二(サントリー)を投入したが、サーブレシーブの名手をもってしても守備布陣の決壊を防ぐことはできず、3本のブロックポイントを含む6連続失点で9−16、そのままリードを守ったイタリアがセットカウント3−1で勝利した。

 確かに不安要素は露呈し、手痛い1敗を喫したことは事実だ。
だが、落胆することはない。
 まだ戦いは始まったばかりなのだから。

 まさかの逆転負けから、奇跡の7連勝で16年ぶりの出場権を手にしたときのように、攻める気持ちを取り戻せば、結果はきっとついてくる。
 燃え尽きるには、まだまだ早すぎる。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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