先頭打者に四球を出すと失点する!?=タジケンの高校野球観戦記

田尻賢誉

データから見る「先頭打者に四球」の危険性

「先頭打者は絶対に出すな」
「四球は出すな。四球を出すぐらいなら打たれた方がいい」
 投手経験者なら、指導者から何千回、何万回と耳にタコができるぐらい言われる言葉だ。“野球の鉄則”と言ってもいいほど当たり前のことだが、実際にはどうなのだろうか。大会第5日までに行なわれた17試合と、降雨ノーゲームになった大阪桐蔭高 対 日田林工高戦を調べてみた。

 まず、先頭打者が四死球で出塁したのは32回。このうち、その走者が本塁を踏んだのは13回ある。先頭で出た走者がバント失敗や盗塁失敗などでアウトになったとしても、そのイニングに得点が入ったケースは14回。従って、得点が入る確率は44パーセントになる。
 一方、先頭打者が安打で出たのは72回で、その走者が本塁を踏んだ数は25回。先頭で出た走者がアウトになったとしても、そのイニングに得点が入ったのは28回だ。したがって、確率は39パーセント。
 “鉄則”通り、安打を打たれるよりも、四死球を出した方が失点する確率は高いのである。

投手はなぜ四球を出してしまうのか?

 指導者から耳にタコができるほど言われ、頭では分かっていながら、なぜ投手は四球を出してしまうのか。これには、さまざまな理由が考えられる。

・ 強打者を迎えて、警戒しすぎてしまう(弱気になってしまう)
・ 下位打線を迎えて、抑えようと力んでしまう、または油断してしまう
・ 打者が俊足で、「コイツを出したら厄介だな」など余計なことを考えてしまう
・ 自分が打者で好機に凡退し、切り替えができないままマウンドに上がる
・ 大量点差で気が緩む
・ マウンドの足場が合わない
・ 審判との相性が合わない
・ 雨でボールが滑る
・ バッテリーの呼吸が合わない
・ 自身の疲労

 審判との相性など、仕方がない場合もあるが、仕方がないと割り切れないのが投手心理。「何で今のがボールなんだ」とイライラしてみたり、「次の打者は抑えなければ」とボールを置きにいってみたり……。その結果、腕が振れなくなり、本来の投球ができなくなってしまう。

仲間を信じて、強い気持ちで投げてほしい

 では、四死球を出さないためにはどうしたらいいのか。これはもう、「攻める気持ち」しかないのではないか。打者がスイングすれば、空振りもあるし、打ち損じることもある。たとえ良い当たりをされても、野手がファインプレーで助けてくれることもある。四死球では、野手は助けることができない。
 ちなみに、先頭打者がエラーで出塁した数は7回。そのうち得点が入ったのはわずか2回しかない。もちろんミスが続くこともあるが、この数字からもわかるように、四死球よりもエラーの方が「仲間のミスをカバーしよう」という気持ちになるもの。打たせてさえいれば、野手は守ってくれる。四死球では、守りのリズムは生まれない。

 甲子園のマウンドに立つ投手、そして、全国の高校生投手に今一度伝えたい。
「四死球を出すぐらいなら、ヒットを打たれた方がいい」
 打者は打席で1人。でも、投手には女房役といわれる捕手も、後ろを守ってくれる7人の野手もいる。仲間を信じ、チームの代表としてマウンドを任されているという誇りと自信を持って、強い気持ちで投げてほしい。
 攻撃は最大の防御――。
 マウンドの投手が攻めなければ、チーム全体に攻めの気持ちなど生まれないのだから。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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