テニス選手にとって五輪は、重要な大会ではない!? 

内田暁

テニス界最年少で五輪出場となる錦織圭。けがも順調に回復しているという 【Getty Images/アフロ】

 テニス選手にとって、五輪はさほど重要な大会ではない――そう信じられていた時代があった。「時代」と言っても大昔の話ではなく、つい最近までのことである。

 テニスには「グランドスラム」と呼ばれ、世界中のテニス選手が勝ちたいと望んでやまない、全豪オープン(OP)、全仏OP、全英OP、全米OPの四大大会がある。分けても、「ウィンブルドン」の愛称で知られる全英OPは、四大大会中、最も古い歴史を持つ、伝統と格式のある大会。多くのテニス選手から最も愛され、そして多くの選手が「最も手にしたい」と渇望するタイトルである。歴史や賞金的な観点から見ても大きな舞台があるからこそ、テニス選手にとって五輪の重要性は、それほど高くないと思われていた。
 
 だが、「そのウィンブルドンの優勝とオリンピックの金メダル、どちらが欲しいかと問われたら悩む」と腕を組むのは、日本の森上亜希子(森上は、膝の負傷のために五輪代表選手推薦を辞退)だ。また、4年半に渡り世界1位の座に君臨した王者、ロジャー・フェデラー(スイス ※現在はまだ1位だが、8月18日付けのランキングで、その座をラファエル・ナダル(スペイン)に明け渡すことが決まっている)は、「2012年のロンドン五輪に出場したい」と発言し、四大大会全てのタイトルを手にしているセリーナ・ウィリアムズ(米国)も、「今まで取ったタイトルで一番大切なのは、シドニー五輪の金メダル」と公言している。

 かくのごとく、テニス選手における五輪の位置付けは確実に変わりつつあるようだ。付け加えるなら、今回の五輪ではほかのテニス大会同様、出場選手は成績に応じてツアーポイントを獲得できるというのも、選手間で同大会のプライオリティが上がっている要因の一つだろう。

五輪に照準を絞り、けがの回復に努める錦織圭

 今年2月にATPツアー初優勝を果たし、一躍、日本テニス界最大のスターとなった錦織圭も、五輪を重要視している選手の一人である。今年6月、自身初の四大大会となったウィンブルドンの緒戦で腹筋を傷めた錦織は、その時点でドクターから全治4〜6週間という診断を受け、以降、フロリダのボロテリーアカデミーで調整を続けてきた。

 北京五輪直後の8月下旬からは全米OPが開催されるが、錦織は現在、同大会の本選にストレートインできるかどうか、非常に微妙なところにいる。全米OPへの出場を確実にすることを考えた場合、この夏、米国で行われるいくつかのツアー大会に出場するという選択肢もあったろう。だが、錦織とスタッフの最終的な決断は、五輪と全米OPに万全の体調で挑むべく、五輪前の大会には一切出場しない、というもの。このことからも、錦織の五輪にかける意気込みが伝わってくる。なお、現在錦織はアカデミーで3セットの試合形式の練習を行っており、痛みもなく、回復は順調とのことだ。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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