木内語録――名将にも長すぎた5年のブランク=タジケンの高校野球観戦記

田尻賢誉

資質優先で“やりたがらない投手”を起用

「ピッチャーが『ピッチャーをやりたくない』ということは重く受け止めなきゃいけない」

 常総学院高のエース・島田隼斗は今夏の茨城県大会まで背番号4。もともとは野手だった。だが、木内幸男監督の目には1987年夏の甲子園で準優勝したときのエースで、島田の父・直也氏(元日本ハムほか)と同様、「投手として大成する素質がある」と映った。甲子園に行くためには島田の力が必要。そう判断したからこそ、茨城県大会でも4回戦から決勝まで全試合に登板させた。
 ところが、島田本人は野手希望。父と比較されるのが嫌ということもあり、投手をやりたがらなかった。木内監督にも直接そう伝えている。それでも、木内監督は素材の良さを優先した。
「われわれは資質というものを大事にしますんで。『これがやらずに誰がやるんだ』『甲子園行くためにこれが必要なんだ』というのがあったんですけどね」

 期待を込めて甲子園では初めてエースナンバーを与え、先発を任せたが、3回にテキサス安打をきっかけに四死球を連発。犠飛で先制点を許し、次の打者にカウント0−2としたところで降板させた。3対5と2点差に追い上げた後の6回裏1死二、三塁の場面で再びマウンドに上げたが、暴投で追加点を献上。さらに安打と四球で塁を埋めた後に押し出し、満塁本塁打で決定的な7点を失った。
「(父と比較するのは)当人が一番嫌がることなんですけど、やっぱり親父の10分の1ですね。資質的には親父よりあるかもしれません。ハートが10分の1。喜んでマウンドに行きましたから、お父さんはね。(味方が)エラーしたら声をかけるゆとりがあった。あの子(島田)はポテンヒット打たれたのも悔やんじゃう。ハートのスケールが違いますね」

自分で自分を制御できない現代っ子

 投球内容からわかるように、結果的には島田のひとり相撲。
「野球は7割がピッチャー。ピッチャーが試合を左右しますから。そんな意味で、ピッチャーをやりたかないっていうのは、そういう責任を背負うのが嫌だと。そういう子もこの時代にはいるようになったというのをつくづく思い知らされました。(島田は)『(調子が)よくない、よくない』と思うだけで、『オレしかいないんだ、オレが投げなきゃゲームになんないんだ』みたいな開き直りがなくて、そのまま『ストライクが入んねぇ』『打たれた』と思いながら、それだけで野球をやってしまった。顔に出ましたもん。ピッチャーがね、顔に出ては付け込まれます。
 ピッチャーはいいときってのはいいんですけど、良くないときにいかに投げるかということを教えていかないとダメ。今の子はいいときだけみんないいですから。悪いときになんとかしてくれればね。落ち込んだら、落ちっ放しという子が非常に多くて。だから選手を代える羽目になるんですよ」
 いいときはいいが、ダメなときはダメ。自分で自分をコントロールすることができない。これが木内監督に言わせれば、現代っ子ということになる。

「たった1年で勝てるほど高校野球は甘くない」

「毎年、毎年、新しい考えを持った子が入ってくるんですよ。それを受け入れていく。それでフォア・ザ・チームというものが高校野球じゃ最優先だよと教えていくことが多いんですけど、教え切れなかった。相手に勝つ前に自分に勝たないと野球はできないよと。(復帰して)たった1年ですからしょうがないですけど、自分の感情で野球やられちゃった。それが一番悔しいね」
 昨秋に監督復帰してから1年。いかに木内監督にしてもハートを変えるには時間が短すぎた。それだけ、人間の考え方や心を変えるのは難しい。そして、嫌だということを無理にやらせることもまた難しい。
「毎回、毎回、子供を相手にして悩んでるのがわれわれの商売なんです。たった1年で甲子園で勝てるほど、高校野球は甘くありません」

 以前、木内監督はこんなことを言っていた。
「マジックなんてねぇんだよ。でも、誰よりもグラウンドにいて、誰よりも選手のことを見ている。それだけは言えるね」
 マジックを披露するには、時間が必要。春夏通算3度全国制覇を誇る名将にも、5年間のブランクは大きすぎた。高校生を指導するのは難しい。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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