昨夏逃した深紅の大優勝旗を――広陵リベンジの夏=タジケンの高校野球観戦
積極的攻撃姿勢と高い打撃技術
4回を終わって2対9――。
広島県大会決勝で絶望的ともいえる7点差から生き返ったのが、昨夏全国準優勝の広陵高だ。先発した中田廉が四死球で走者をため、長打を浴びて大量失点。救援した前田貴史も連打に暴投で失点を重ねるなど流れを止められずに完全な負けパターンだったが、それでも選手はあきらめなかった。
「(ベンチに)あきらめた感じがまったくなかった。びっくりしました」(中井哲之監督)
安打1本でガッツポーズをしながら一塁へ向かう気合の入った攻撃は、総合技術守備陣の乱れも呼び、6点奪われた直後の5回に一挙7点を奪って同点。さらに6、7回に計3点を追加して、総合技術ナインの戦意を喪失させた。
この試合で目立ったのは、積極的な攻撃姿勢。2回には上本崇司がセンター右前への当たりで、ノンストップで二塁へ。5回、1死満塁では藤村祐也のレフトへの犠牲フライで二塁走者の有水啓がタッチアップで三塁を奪った。総合技術外野陣の緩慢な送球を突いた走塁に見えたが、有水は「スキがあれば行こうというのはいつものことです。相手が総合技術だからではありません」と平然としていた。
7得点した5回の攻撃では、5安打のうち3本がファーストストライク(2本が初球)を打ったもの。残りの2本も初球からスイングしてファールにしている。「チャンスでは積極的に」という姿勢が全打者から見て取れた。
この試合では犠飛が3本。四番の石畑、五番の中田の中軸に加え、八番の藤村も記録した。年間144試合あるプロ野球でも、最も犠飛の多い打者で10本前後(2007年の最多はセが巨人・阿部慎之助の10、パが東北楽天・山崎武司、オリックス・北川博敏の7)。それだけ犠牲フライを打つのは容易ではない。それでも犠飛を打ち上げられるのは、ゴロを打たないという意識、打つべき球をしっかり打っていることに加え、高い技術があるという証明だ。広島県大会準々決勝から3試合連続2ケタ得点、チーム打率3割8分3厘もさることながら、好機にしっかりと外野フライが打てる打者がそろっているところが広陵打線の強みでもある。
監督の「弱い」発言に打ち勝った選手たち
決勝戦後の優勝インタビューで中井監督は「弱いので、思い切ってやるしかない」と言ったが、野村祐輔(明大1年)、土生翔平(早大1年)を擁し昨春のセンバツ8強、昨夏の甲子園準優勝のチームもセンバツ前から中井監督に「弱い、弱い」と言われていた。福原忍(阪神)、二岡智宏(巨人)らがいた1994年、吉川光夫(日本ハム)、上村新(駒大2年)、松永弘樹(早大2年)らがいた2006年はともに「強い」と言われながら甲子園に届かなかった。広陵高が結果を残すときは、選手たちが中井監督の「弱い」という発言に打ち勝ったときでもある。何より、ことしの選手たちには何ものにも変え難い昨年の経験がある。優勝まであとアウト4つに迫りながら、4点差を逆転されたあの佐賀北高戦の経験――。
「気を抜いたわけじゃないですけど……。1球の大切さを知りました」(有水)
上本も同じフレーズを口にしたように、有水の言葉は、全員の言葉でもある。
たとえ点差が離れていようとも、無駄な球は1球もない。
昨夏逃した深紅の大優勝旗へ。1球の大切さを胸に、広陵高ナインがリベンジの夏に挑む。
<了>
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