橋本真也「爆勝宣言」を作った男・鈴木修氏にインタビュー

スポーツナビ

プロレステーマ曲はこうして作られる

テーマ曲の作り方を語る鈴木さん 【スポーツナビ】

――では、テーマ曲そのものに関してお伺いしたいのですが、作曲するときに選手をイメージしたり、手拍子のしやすさとかを考えられているんですか?

 考えてますね。入場曲って、お客さんの見えないところからリングに上がってワンポーズするまでの間に使うわけですから、会場の広さとか条件によって変わってきちゃうんですよね。まず自分が20年前に悩んだのは、後楽園ホールって(花道が)短いですよね? やはり短いなかでバーッと勝負できるフレーズを最初に持ってくる構成をどうするか。

 たとえば、(花道の長い)東京ドームみたいな感じで聴かせるというのは当時はまだなかった。後楽園ホールでやるのと両国国技館や日本武道館でやるのとは長さも違うし、そのなかでお客さんが手拍子で入ってくるようなキャラクターの選手もいる。そのへんは全部同じじゃない。別々なんですよね。それプラス、リズムができて……だからリズムの体系とメロディの組み合わせができれば、いい曲ができるなというのを信じてやっていました。武藤さんの曲「HOLD OUT」は分かりやすいと思います。
 手拍子とかコールだとかはテンポに関係してきますし、あと選手によっては入る前に見栄を切ったりもしますからね。自分としては両国国技館ぐらいの会場で一番きれいに収まるのがいいかなと、そんな作り方をしています。

――花道までの長さも考慮に入れていると

 そうです。日本武道館とか、あの辺が一番理想かなと。ドームはちょっと長すぎるかな。

――鈴木さんはプロレスラーのテーマ曲をどのように考えていますか? 格闘技の入場に比べてプロレスの入場はファンの思い入れも深いと思うんですが

 やっぱり試合の前の一番華やかなところであるんですけど、バックステージから花道までに行く前って選手は一番ドキドキしている瞬間でもあるし、待っている人から見ると最初のハイライト。全部のなかの、照明だとか演出というところでは、ものすごい重要な要素でしょう。その点、今のノアさんの武道館なんかは素晴らしいですよね。どんどんどんどん(入場してきて)、気がつくとメーンイベントに向かって気持ちがみんな行っている。自分もそういうものを目指して、新日本さんのときにやっていた。ドームでもなるべく間を空けないような。

小橋建太復帰戦で流れた「GRAND SWORD」のエピソード

超満員の日本武道館の観客が涙した小橋の入場シーン(写真は07年12月「ノア」) 【t.SAKUMA】

――ノアの武道館といえば、昨年12月に小橋選手が腎臓がんから復帰したときの入場は感動的でした

 私も期待と不安を胸に行きました。あの日は、あの一瞬に向かって、もう全員が集中していましたね。業界全体の人気が落ちていると言われるけど、自分はそれを見て「まだ全然人気は変わらないじゃないか」と思いましたけどね。

――あの場面は、あの曲なくしては成立しなかったとすら思います

 帰るときに会場から地下鉄の入口まで、ずっとのろのろ歩くじゃないですか。そこで誰かしら「GRAND SWORD」を口ずさんでたりして、すごいうれしかったです。そして、あの曲を生かしてくれるのも小橋さんの力だし。「GRAND SWORD」もいろいろ試行錯誤ありまして、あそこに落ち着くまでに珍しく苦労しました。

――物悲しいというか切なさを感じさせる旋律ですよね

 小橋さんというと、ガーンと(トップまで)行けそうなところはあったんだけど、意外とサラリーマンからたたき上げで来て、すごい努力をした人。表舞台とは違う、そういうところを聞いたら、やっぱり自分で妥協しないで高めていっている人なんだなぁと思って、ああいうシンプルな構成にしました。それは正解だったと思いますし。

 やっぱり曲とか作っていて、自分はいいと思ってるんですよ、どの曲も。だけど、みんなが聴いてみんながいいと思うことはないと承知しているんですが、先ほどのようにあの曲があるからとか言ってもらえると、自分も勇気付けられます。「よかったんだ。じゃあ次も続けよう」というその気持ちのモチベーションの継続って大変なんです。そういった意味で、橋本選手が亡くなったあとの自分の気持ちの穴は結構大きかったですね。

――では最後に「爆勝宣言」オーケストラver.とフルアルバムについて一言ずつお願いします

「爆勝宣言」オーケストラver.は、橋本選手とのオーケストラバージョンをやるという約束と、今回タイトルに“活”という字を打ったんですが、みんなのなかで生きているという意味もあるし、本当に彼という存在が生き続けているんだというのが、この曲をご子息に贈呈・提供することにつながっていく。これが今回の「爆勝宣言」を作るという意味合いとして伝えたいです。

――できれば、この曲で橋本選手に入場してほしかったと

 はい、希望でもありますし、約束です。当然、本人はもう聴けないですけど、本人を慕ってきた大勢の人たちの前でこれが流れれば、本人が聴いたことと同じ意味合いになるんじゃないかという解釈をさせていただければと思います。

 フルアルバムについては、自分の力が出ないときに何かの形で勇気付けられたり、いろんな力がまた戻ってくるというような手助けにしていただければ。私自身がいろんな人にそうやってお世話になったように、そこから高く気持ちを持っていく、強めていくということにつながる曲もたくさんありますので、聴いていただく方が強い気持ちになる手助けになれればと思います。

――ありがとうございました

※オーケストラver.で新たな生命が吹き込まれた「爆勝宣言 -活- 〜オーケストラバージョン」は、7月11日に「mu−mo」(携帯サイト http://mu-mo.net/)にて着うた(R)、着うたフル(R)として独占配信!(2週間限定)

鈴木さんのオリジナルニューアルバムは今秋発売 【スポーツナビ】

鈴木修さんのオリジナルニューアルバム「STYLUS」は、今秋発売決定!

【フルアルバム収録楽曲】(全11曲予定)
1.FUJIYAMA 2.STYLUS(小島聡) 3.HOLD OUT A(武藤敬司) 4.美返り坂 5.POWER 08(中嶋勝彦) 6.MISERABLE 7.HI−LIGHT 8.MUTA −院殿−(グレートムタ) 9.両手足を高く上げて 10.FANTASTIC CITY 08(蝶野正洋) 11.爆勝宣言 −活−[オーケストラバージョン](橋本真也)

■鈴木修プロフィール
作曲家、編曲家、ギタリスト。1965年生まれ。静岡県出身。プロレスの選手入場テーマ曲の作曲者として、新日本プロレス、全日本プロレスといったメジャー団体の選手に多くの曲を提供しており、プロレスファンの間では「ミスター・プロレステーマ」と呼ばれている。代表曲は「爆勝宣言」、「HOLD OUT」、「GRAND SWORD」など。

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著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

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