トルコが手にした最高の誇り=ドイツ 3−2 トルコ

渡邉将之

3試合連続の逆転劇がもたらした困難

準決勝で姿を消したトルコだが、人々の心には代表への誇りが残った 【REUTERS】

「私は試合を見ている人たちが、いつもわれわれのプレーから喜びを得ることができるチームを望んでいる」
 トルコ代表のテリム監督は機会があるごとに、理想のチーム像としてこの言葉を用いていた。そして、この理想が実現されたのが、ユーロ(欧州選手権)2008でのトルコだった。

 準決勝でドイツに敗れて大会から去ることが決まった後も、テリムは理想が実現したことを誇らし気に語った。
「今大会で最も華のあるチームとして、ここから離れることになった」
 トルコはダークホースとして、そして、そのサッカーの内容から見る者に喜びを与えるチームとして、間違いなく大会に華を添えたチームだった。その象徴と言えるのが、“奇跡のトルコ”と表現された試合終了間際にゴールを奪って生まれた数多くの逆転劇だった。

 グループリーグのスイス、チェコ戦は、先制点を許しながらも後半終了間際に奪ったゴールで試合をひっくり返し、グループリーグ突破を果たした。準々決勝のクロアチア戦も、延長後半のロスタイムに同点に追いつき、PK戦の末に逆転勝ち。3試合連続のドラマティックな逆転劇によって、トルコは試合を見ている者に「最後まで何か起こしてくれるのではないか」という期待を抱かせた。ドイツ戦もまさに、そんな試合となった。

 ドイツ戦は、試合前にさまざまな困難が待ち受けていた。累積警告とけがのため、トルコがこの試合でプレーできる選手はわずか15人足らずだった。クロアチア戦でも同じ理由で17人だったが、さらにその数は減っていた。快進撃を支えたニハト、アルダ、トゥンジャイといった主力を欠く苦しい状況で、これまでのように奇跡を期待するのは現実的には不可能だった。手厳しいトルコメディアでさえ、試合前は勝利を期待しつつも、「ここまでよくやった」というニュアンスが含まれた報道姿勢だったのだ。

 多くの人がトルコの現状に悲観的になっていたが、チームにはそのような雰囲気はなかった。少なくとも監督のテリムは勝利に対して自信を持っていた。前日会見でテリムは笑顔を交えながら、ドイツ戦の意気込みを口にしている。
「ケガ、累積警告のような困難はある。しかし私も選手も、今日まできたこの地点(ベスト4)で十分だとは思っていない。私はすべての選手を信用している。代わりに出場する選手が、出られない選手以上の結果を残してくれるだろう。大会が始まる時、世界はトルコの選手を少しだけ知っていた。しかし、今はすべての人が彼らに脱帽しているはず。あらゆる結果が可能なのだ」
 テリムには一抹の不安もなく、これまで通り、何かを起こして勝利する自信がみなぎっていた。そして、このテリムの言葉がドイツ戦で実現することとなった。

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著者プロフィール

1979年生まれ、法政大学卒業。2003年からトルコに滞在し、トルコサッカーに漬かる日々を過ごす。ベシクタシュの本当のサポーターになるべく、ベシクタシュが拠点を構えるベシクタシュ地区に滞在し、日々サポーターと親交を深めている

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