“死のグループ”を突破したものの……

 ユーロ(欧州選手権)2008の“死のグループ”となったグループC。そこを勝ち抜けたチームは必然的に優勝候補であるはずだった。ところが、イタリアとオランダは準々決勝で共に敗退を喫した。

 グループCを勝ち抜く2チームはどこか。それを事前に予想できる人はほとんどいなかった。イタリアとフランスは、2006年ワールドカップ(W杯)・ドイツ大会のファイナリストであったし、オランダとルーマニアはヨーロッパで最も危険な国だった。
 どこが抜けるかは予想困難だったが、このグループを勝ち抜けるほど強いチームならば、ベスト8以降は当然優勝候補になると考えられていた。それについては、皆、口をそろえていたものだ。
 そこで、何が起きたか。イタリアは悲惨な敗北を喫し、スペイン相手にフットボールをやろうという気概さえ見せられなかった。素晴らしいスタートを切ったオランダも、さらに素晴らしいロシアに圧倒された。
 だが、歴史を振り返ってみれば、ビッグトーナメントの“死のグループ”の勝者が、意外と早く敗退するケースは過去にもある。むしろそのほうが多いぐらいだ。

 2年前にさかのぼってみよう。ドイツW杯での“死のグループ”は、やはりグループCだった。グループCにはセルビア・モンテネグロ(当時/W杯予選では最も失点の少なかった国)、コートジボワール(アフリカでは最強だった)、そしてオランダとアルゼンチンが同居した。だが、セルビア・モンテネグロは奇妙なことに自慢の守備が崩壊し、アルゼンチンに0−6で敗れ、早々に脱落が決まった。コートジボワールも競り負け、オランダとアルゼンチンが勝ち抜けた。
 この時点で、アルゼンチンは大会優勝候補の一番手と考えられていた。だが、アルゼンチンは準々決勝でドイツにPK戦で敗れ、オランダは決勝トーナメントの最初のゲームでポルトガルに負け、ベスト8にも残れなかった。

 その2年前、ユーロ2004の“死のグループ”はドイツ、チェコ、オランダ、ラトビア。この場合は3強1弱だが、3強のうち1つは脱落という厳しさがあった。結局、チェコとオランダが生き残り、ドイツとラトビアが敗退した。
 この段階ではチェコが素晴らしいサッカーを見せていたが、チェコとオランダはそろって準決勝で敗退した。さらに2年前の日韓W杯では、グループFがアルゼンチン、イングランド、スウェーデン、ナイジェリアとなっていた。驚くべきことにアルゼンチンは敗退し、スウェーデンが1位通過を果たし、イングランドがそれに続いた。
 だが、スウェーデンはセネガルに、イングランドはブラジルにあっさりと敗れ、決勝に近づけなかった。
 2000年のユーロはグループAのドイツ、イングランド、ルーマニア、ポルトガルが“死のグループ”を形成した。ポルトガルに完敗したドイツとイングランドが脱落し、ポルトガルとともにルーマニアが勝ち抜けた。だが、ルーマニアは準々決勝でイタリアに敗れ、ポルトガルはフランスにぎりぎりまで粘ったが、ザビエルのハンドをとられてPKによるゴールデン・ゴールで散った。
 ユーロ1992ではグループ2が、ドイツ、オランダ、ルーマニア、ソ連(大会はCIS/独立国家共同体として参加)という組だった。ドイツは決勝へ、オランダは準決勝へ進出したが、両者の敗れた相手は、大会1週間前にユーゴスラビアの不参加で代替出場が決まったデンマークであった。
 1990年のイタリアW杯ではアルゼンチン、カメルーン、ルーマニア、ソ連が“死のグループ”に属した。アルゼンチンは決勝まで上り詰めたが、西ドイツ(当時)に0−1で敗れ、タイトルを逃した。

 さて、“死のグループ”ができあがるには理由がある。強豪国以外が共同開催すれば、必ずこうなる。今回のユーロ(オーストリアとスイス)や2002年の日韓W杯や、次回のユーロ(ウクライナとポーランド)もそうなるだろう。開催国2チームが第1シードになるので、本来ならトップシードのはずの強豪国が第2シードとなり、自動的に厳しいグループが生まれる。
 今回のユーロでは、さらにまずいことに前回優勝のギリシャがトップシードになったので、“死のグループ”は必然だった。ただ、“死のグループ”の歴史を振り返ってみると、特定の犠牲者がいることが分かる。オランダとアルゼンチンだ。

 2002年の日韓W杯の決勝まで、ドイツとブラジルはW杯で対戦したことがなかった。両国の長い歴史を考えれば、偶然では片付けられない。これはFIFA(国際サッカー連盟)前会長のブラジル人、ジョアン・アベランジェの影響が1つ。さらにFIFAのドイツ語グループにドイツ人が影響力を持っていたことが2つ目に挙げられる。ブラジルとドイツは、互いを回避していたと考えるのが自然だ。

 アフリカ諸国も死のグループの常連だ。カメルーン、ナイジェリア、コートジボワールと、その大会で最強のアフリカチームが3度も“死のグループ”に振り分けられている。“死のグループ”に組み込まれると、たとえそこを抜け出しても遠くまで行けないことが多い。4〜5週間もスピードやフィジカルコンディションを最高の状態に保っておくことは、無理な相談なのだ。
 さて、次の犠牲者は誰なのだろう。

<了>
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著者プロフィール

1965年10月20日生まれ。1992年よりスポーツジャーナリズムの世界に入り、主に記者としてフランスの雑誌やインターネットサイトに寄稿している。フランスのサイト『www.sporever.fr』と『www.football365.fr』の編集長も務める。98年フランスワールドカップ中には、イスラエルのラジオ番組『ラジオ99』に携わった。イタリア・セリエA専門誌『Il Guerin Sportivo』をはじめ、海外の雑誌にも数多く寄稿。97年より『ストライカー』、『サッカーダイジェスト』、『サッカー批評』、『Number』といった日本の雑誌にも執筆している。ボクシングへの造詣も深い。携帯版スポーツナビでも連載中

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