スペイン対ロシアの再戦を前に=スペイン 0(4PK2)0 イタリア
もうひとつの“死の組”から勝ち上がってきた2チーム
中盤の高い構成力で試合の主導権を握ったスペインだが、最後までイタリアからゴールを奪うことができなかった 【REUTERS】
こうなると我慢比べのはずだが、スペインのアラゴネス監督はこう着状態を打開しようとしたのか、59分と60分、大胆にイニエスタとシャビを下げ、セスク・ファブレガスとカソルラを投入した。ところが、この交代の後からイタリアがビッグチャンスを作った。バランス・ゲームは、動きのある試合へとキャラクターを変えるかと思われたが、試合はお互いバランスを保ったまま。守備の強いイタリアと、中盤の構成力の高いスペインの特徴が悪い形でかみ合わさるとこうなる、といった感じのゲームだった。
それでもカシージャスとブッフォンがゴールを守るPK戦は見ごたえがあり、4−2でスペインが準決勝進出を決めた。
こうして、スペイン対ロシアの再戦が実現することになった。
「死の組」――オランダ、フランス、イタリア、ルーマニアが入ったグループCを人々はそう呼んだ。しかし、グループDも相当なもの。前回のユーロ(欧州選手権)2004で大波乱が起きたグループAのうち、ギリシャ(優勝)、スペイン、ロシア(共にグループリーグ敗退)がそのまま今回のグループDに入り、さらにスウェーデンが加わった激戦区だったのだ。
準々決勝、準決勝は、グループAとB、CとDのヤマに分かれるが、C、D側の方に強豪チームが偏ったのも、やはり2つの「死の組」があったからだ。
6月10日、両者はグループリーグの初戦で対戦し、4−1でスペインが快勝している。しかしロシアはあの時、インスブルックで醜態をさらしたロシアとは違う。ロシアは「死の組」を勝ち上がることによって、実力を上げ、自信を備えた。
監督のヒディンクは中3日でギリシャ戦(1−0)、スウェーデン戦(2−0)、中2日でオランダ戦(3−1)と、試合の合間に必死の指導を若きイレブンに施した。オランダ戦の前には、
「メディアのいない非公開練習で、私はわざと選手とけんかをした。それに選手が耐えられなければ、帰ってもいいと思った」
というほどの挑発をビッグゲームの前にした。
さらにロシアには、コンディショニングのオランダ人エキスパート、フェルアイエン・コーチがいる。中2日で戦ったロシアが、実質1週間の休みがあったオランダを凌駕(りょうが)したのは驚きだったが、その背景にはヒディンクのメンタル刺激と、フェルアイエンのコンディショニング調整が、ロシアの選手にピタリとはまっていたのである。
初戦のロシアと今のロシアは、決して同じチームではない
その一方で、オランダ戦でも改善できなかった弱点がロシアにはある。
「オランダの唯一の武器はFKだった」(ヒディンク)。そのFKから、終了直前に同点弾を浴びたこと。またチャンスのわりにゴールが少なく、オランダ戦で2−0とするチャンスがあったのに決められず、同点に追いつかれている。
こういう試合運びのつたなさは、必ず国際試合で“罰”を受ける。それがトップフットボールの法だ。オランダ戦でも1−1と追いつかれた場面で、その罰をロシアは受けた。同じ間違いをスペイン戦で起こしたら、今度こそロシアは敗れるだろう。
イタリア戦後、スペインの守護神でありキャプテンのカシージャスは、
「グループリーグとは違うニューマッチ。ロシアはスウェーデン戦、オランダ戦と素晴らしい試合をしている」
と気を引き締め、アラゴネス監督は、
「ロシアは彼らのサッカー史の中で最高の瞬間を迎えている」
と語る。
しかしアラゴネス監督はこうも言う。
「ライバルのことは関係ない。われわれのフットボールが、フットボールなのだ」
スペインはスペインのサッカーを貫くまで。そうアラゴネスは言いたいのだろう。相手を分析し、弱点を突いてくるヒディンクとは対極の考え方だ。
スペインは、6月10日と同じイレブンを22日のイタリア戦に送り出した。かたやロシアは、対戦相手ごとに選手を入れ替えながら試合を重ね、チーム力を高めている。特にスウェーデン戦、オランダ戦ではアルシャービンが加わってチームのパフォーマンスが上がった。アルシャービンは予選の最終節で退場処分を受けて2試合出場停止だったため、グループリーグでのスペイン戦には出ていない。間違いなく“決勝への鍵”を握る男になるだろう。
ヒディンク監督の指導により、攻撃的なチームに仕上がったロシア。一方のスペインもイタリア戦で不完全燃焼に終わっているだけに、準決勝では期するものがあるはずだ。26日には、今大会の屈指の“攻めのセッカー”の応酬が見られそうだ。
<了>
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