強いドイツが帰ってきた!=ポルトガル 2−3 ドイツ

中田徹

ドイツサポーターが4度の歓喜

会心の勝利を収めたドイツ。ドイツは、優勝候補ポルトガルを下したことで、かつてのような自信に満ち溢れている 【Getty Images/AFLO】

 シュバインシュタイガーがゴール! クローゼがゴール! バラックがゴール! そして94分、ドイツ勝利でタイムアップ!
 ユーロ(欧州選手権)2008準々決勝のポルトガル対ドイツ戦は、ドイツ側ゴール裏応援席で観戦したが、僕は4度ドイツサポーターの歓喜のビールを浴びてしまった。おかげで服はビール臭くなったが、それも仕方がない。ドイツは勝利に値する試合をしたし、サポーターの喜びも理解できる。
 僕も110ユーロ(約18000円/チケット代=定価)分の元は十二分に取った。
「これがホントに、グループリーグでつまらない試合をしたドイツかよ」
 そう思うに十分な、気合いの入った素晴らしい試合をドイツは見せてくれた。

 それにしてもすごいドイツの応援団だった。グループリーグでオランダのサポーターはベルンのスタジアムの7割を埋めたが、ポルトガル戦のドイツサポーターは、バーゼルのスタジアムを9割近く埋めただろう。グループリーグを終えた後、ベッケンバウアーをはじめ多くのドイツ人は、「このままではポルトガルに勝てない」と思っていたらしいが、根っからのサッカー好き国民だけある。代表チームを信じ、バーゼルをすっかりドイツの地元にしてしまったのである。この日のドイツの応援団の雰囲気は、今後僕も忘れることができないだろう。

“労働”によってドイツがチャンスを量産

 ドイツは不思議なチームである。メルテザッカーとメツェルダーのセンターバックコンビは、ゴール裏から間近で見ていても危なっかしい。GKのレーマンも不安はある。この日の守備的MFのコンビ、ロルフェスとヒッツルスベルガーは奮闘したものの、ぶっつけ本番の感は否めない。
 本来、強豪チームの最低条件は、センターのラインがしっかりしていることだが、バラック、クローゼを除くと心もとないことこの上ない。それでもポルトガル戦のドイツは、センターラインの弱さをカムフラージュするようなサッカーを見せ、優勝候補ポルトガルをうっちゃってしまった。
 序盤、ドイツが2点をリードしたのは、リスクを背負いながら人数をかけて攻撃したことが奏功したのだと思う。ドイツのディフェンスは、守ろうとして守り切れるディフェンスではない。攻撃もクリエーティビティーで相手を崩せる選手はいない。だからドイツは攻撃の起点を作った瞬間に、何人もの選手がスペースを作りながら攻め上がった。それによってポルトガルの守備陣を下げ、味方の守備陣に落ち着く時間を与え、“労働”によってチャンスを作った。さらにカウンターとセットプレーから効率よくゴールも重ねることができた。
 前半24分、オーロラビジョンに映されたスタッツは、ドイツのシュート数4、ポルトガルのシュート数2、ポゼッション率はドイツの55%、ポルトガルの45%だった。ドイツは試合にうまく入ることに成功し、ゴールを順調に奪ったことがうかがえる。

 やがてポルトガルが反撃に移り、ボールポゼッション率もシュート本数も逆転し、ドイツの試合内容は一時低下した。しかし61分、バラックがFKから3−1とするヘディングのゴールを挙げると、ドイツは堂々たる姿を再び現した。
 78分、レーマンのパントキックを追ったポドルスキが、ボジングワにユニホームをつかまれながらCKを獲得すると、ゴール裏サポーターに向かって大きくほえ、そのCKを蹴りに走り寄ってきたシュバインシュタイガーはガッツポーズを作った。そんな頼もしいイレブンにスタンドは大熱狂。こうしてドイツは「ポルトガルに勝てるぞ」という自信をどんどん深めていったのである。

「シャイセ!(ドイツ語のスラング) 何で4分もロスタイムがあるんだよ!」
 そんな叫び声もタイムアップの瞬間消え失せた。3−2でドイツが勝利。ポドルスキは、大会マスコットのフリックスくんにタックルをくらわすほど興奮し、ピッチの上で自ら応援団長となってイレブン、そしてサポーターの歓喜の雄たけびをリードした。試合終了後10分以上経ってもほとんどのサポーターは席を立たず、選手も更衣室へ引き上げて行かないほど、ものすごいドイツの高ぶり方だった。

ドイツが1位と2位のヒエラルキーを崩した

 今回のユーロは、グループリーグ第2節で各グループの首位4チームが確定し、各チーム第3節は“Bチーム”を送って主力を休養させた。その分、2位争いはし烈だった。グループリーグ首位のチームと、2位のチームの間にはハッキリとした実力の差があり、それが準々決勝のヒエラルキーを作っている。だから準々決勝はそれほど波乱はないのでは――と予想していた。しかし、ドイツはグループリーグのもたつき方がうそのように、ポルトガルを倒してしまったのである。

「つまらない時のドイツには気をつけろ」
 そうよく言われる。彼らはビッグイベントでなかなか本来のプレーができないときほどしぶとく決勝戦へ勝ち上がってくるのである。グループリーグの時のドイツは本当につまらなかったから、ジンクスはポルトガル戦でも生きていたのかもしれない。しかし、これまでのドイツと違うのは、ポルトガル戦の試合内容が実に面白く、選手・サポーターも自信がみなぎっていたこと。こんな時のドイツは、どんな結末を迎えるのか、僕も経験がない。
 ポルトガル戦で彼らがつかんだ自信は、ビクトリーロードへの合図か、それとも過信の落とし穴が待っているのか。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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