“Bチーム”に見えたクロアチアの実力=ポーランド 0−1 クロアチア

中田徹

クロアチアBチームは、ポーランドAチームよりはるかに強かった

控え選手中心でもポーランドに勝ったクロアチアは3戦全勝でグループリーグを終えた 【Getty Images/AFLO】

“Bチーム”。ユーロ(欧州選手権)にはそう呼ばれるチームがある。たった2試合でグループリーグの1位抜けを決定した国は、最終節は出場機会のなかった、もしくは少なかった選手を大量起用するのだ。
 UEFA(欧州サッカー連盟)はこのような選手起用に関し、「問題なし」という見解を明らかにしている。
「グループリーグを突破したチームが、準々決勝以降をかんがみて警告累積や負傷の可能性を避けるのは当然のこと」
 これがUEFAの答えである。

 グループA首位のポルトガルはすでにBチームでスイスと戦い、0−2で敗れている。グループBは、クロアチアがBチームを編成し、4位のポーランドと戦った。
 グループAはチェコ対スイスの対戦成績のみによって2位が決まったので、ポルトガル対スイスは、順位決定に何の意味もない試合だった。しかしグループBは違う。もしオーストリアがドイツに、ポーランドがクロアチアに勝った場合、オーストリアとポーランドは勝ち点で並び、最後は得失点差で2位を決めることになるのだ。
 オーストリアがドイツに勝つにしても、1点差がせいぜいだろう(結局はドイツが1−0で勝利したが)。しかしポーランドは、クロアチアBチームの出来次第では、もしかすると2点差、3点差をつけることも可能かもしれない。だがポーランドにとって、それはしょせん机上の計算に過ぎなかった。0−1。90分を終えて勝ったのはクロアチアの方だった。クロアチアBチームは、ポーランドAチームよりはるかに強かった。

テクニックに優れるクロアチアの選手

 クロアチアは、6人の選手がユーロ(欧州選手権)2008初出場。クネジェビッチ、レコの2人は初スタメンで、ラキティッチ(2戦連続フル出場)とプラニッチ(3戦連続フル出場)のみが“Aチーム”の選手だ。
 一方、ポーランドはベストメンバーのはず。しかしベーンハッカー監督は中心選手のスモラレクやバクをベンチに置いた。

 試合が始まると、ポーランドの選手に疲労の色が濃かった。ちょっとしたつなぎのパスやトラップがぶれる。クロスやFK、CKは選手の意図とは関係ない方向へと飛んでいった。何が何でも勝たなければいけないのはポーランドの方。しかし体が気持ちについていかなかった。
 Bチームのクロアチアは肉体的にも精神的にも、とてもフレッシュなプレーを見せた。しかもクロアチアは、ポーランドのような技術が並レベルのチームをいなすのが実にうまい。
 クロアチアはユーロの予選では、雨のウェンブリー・スタジアムで行われたイングランド戦で、ピッチ条件の悪さをものともせずテクニックの差を見せつけた。今大会でもドイツに勝ったが、クロアチアとドイツの個々の選手を比べた場合、テクニックに関してはクロアチアの方が上だった。

 前半はクロアチアのペース、後半はポーランドのペースの試合だったが、90分間トータルではクロアチアが勝ちに値する試合をした。
「戦術がうまくいった。ポーランドは、早めにプレスをかけておけば、チャンスを作ることが難しいチームなのは分かっていた。だからペトリッチ(クラスニッチと2トップを組んだ)と両サイドの選手にプレスを早くかけさせた」
 とビリッチ監督はしてやったりの表情。クロアチアBチームは、即席チームにして即席にあらず。才能と組織がしっかりとかみ合わさっていた。

 クロアチアは前半27分にセンターバックのクネジェビッチが負傷退場し、サイドバックのチョルルカが出てきてセンターバックに入った。それでもベイッチらディフェンスラインとのコンビは安定していた。71分には、巧みにポーランドをオフサイドトラップにかけた。それだけ充実したディフェンスラインをクロアチアは組めたのだろう。右サイドバックはシミッチ。クロアチアBチーム、恐るべしである。

Bチームが握るグループ2位通過の行方

 大会敗退が決まったポーランドのベーンハッカー監督は、「たくさんの野望を抱いていたのに、がっかりしている」と失意の表情。
「大会を通じて分かったことは、ユーロのレベルではわれわれは力が不十分だった。われわれは予選ではもっと良かった。しかしユーロではトップフォームではない選手がいた。例えばスモラレクやクルジノベク。しかし私は彼らを非難しない。選手はこの大会にすべてを注いでくれた」
 と語った。中3日で強豪国同士がしのぎを削るトップトーナメント。選手層の薄いポーランドにとって、中心選手にかかる負担は大きかったのだろう。クルジノベクは大会を通じて、ボルフスブルグでのようなパフォーマンスから程遠かった。クルジノベクに限らず、ポーランドは実力を発揮する前から疲労困憊(こんぱい)しているようだった。

 さてグループCはオランダが“Bチーム”を組んでくるだろう。もしオランダがルーマニアに敗れたら、その瞬間、イタリアとフランスが大会を去る事態になる。オランダBチームは、果たしてクロアチアBチームのようなパフォーマンスを見せるのか、それともスイスに敗れたポルトガルBチームのようになるのか。
 オランダは4年前のユーロでチェコBチームに救われた経験がある。チェコは最終戦でドイツを2−1と破りグループリーグ全勝を決めただけでなく、オランダの準々決勝進出をアシストしたのである。
 クロアチアに続いて、オランダが恐るべきBチームを編成できるか。オランダの消化試合は、世界の注目の的である。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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