アズーリに残された策はただ一つ=イタリア 1−1 ルーマニア

カンナバーロ離脱も、攻撃的スタイルを貫く指揮官

イタリアに残された策は、最も得意とする“守備とカウンター”のサッカーに徹することだ 【Getty Images/AFLO】

 これだけ分析が容易な状況はそう多くはない。にもかかわらず、相変わらずイタリアは無意味な弁明に終始し、置かれた状況を他者の責任としたいようだ。

 対ルーマニア(グループC第2戦=13日)の終了直後、イタリア代表のロベルト・ドナドーニ監督は「判定にとやかく言うのは主義に反する」としながらも、大会を主催するUEFA(欧州サッカー連盟)に対し、「(初戦、オランダの1点目)フィールドの外に倒れたパヌッチを見逃さなかった一方で、今回、明らかにゴールポストの前にいたDFが視界に入らないなど、不可解と言う以外にない。この判定のミスがわれわれに高い代償を強いる結果となった」と責めた。

 言うまでもなく、ここでドナドーニが話しているのは前半47分のゴール取り消しを指してのものだが(事実、トーニのゴールは明らかに有効なはずだった)、このポイントのみを指摘して現状(C組最下位)の要因とすべきではない。冒頭で述べた通り、余りにも明白な理由がほかにある。

 まずは初戦のオランダ戦でドナドーニが採用した布陣。予選すべてを4−3−3(または4−2−3−1)で戦ってきたがゆえに、その路線継続は必然――との論理で同システムを敷いたイタリアだが、余りに短絡的だった。この攻撃的な戦術は、安定した守備なくして成立せず、現アズーリ(イタリア代表の愛称)DFのかなめがファビオ・カンナバーロである以上、その主将を欠いた状況で採るべき布陣ではなかったはずだ。「カンナバーロのいないイタリアは、守備におけるポテンシャルを5割以上落とす」とは、今にして言われ始めたことではなく、先のワールドカップ(W杯)以降、一貫して常識とされてきた事実だ。

 現に今大会前の合宿でも、主将の存在は際立っていた。06年W杯開幕前、当時の監督マルチェッロ・リッピが「代表で新しい戦術を導入するなど愚行だ」として、守備組織の確認に時間の大半を費やしていたのに対し、ドナドーニは一転。事実上、両翼からの攻撃システムをいかにして機能させるか、これのみに徹していたと言っていい。その傍らで守備の統率は主将にすべてを委ね、4−3−3の後方の『4』と『3』の連係が確認されることは皆無であった。

 だが初戦を1週間後に控えた6月2日、そのカンナバーロが練習中に故障し、全治3カ月ものケガを負い戦線離脱。となれば、先に述べた「主将がチームに与える影響」が突出する以上、この時点でしかるべき戦術変更が図られるべきであった。言うまでもなく、それは4−4−2(または4−4−1−1)への移行を指す。まさにデルピエロの招集も、このシステムを生かすためではなかったのか。
 ところがドナドーニはこの鉄則に従わず、あくまでも自らの目指す攻撃的スタイルを貫いた。だが、柱を欠いたチームはもろくも崩壊。先のオランダ戦での大敗を喫することになった。

本来の形に戻すことは決して過ちではない

 ドナドーニは、一体チームの何を見てきたのか。ユース時代から徹底して4−4−2をたたき込まれているイタリアの選手たちにとって、ほかのシステムは半ばオプションに過ぎない。ならば、それを実践する前提が崩れた以上、本来の形に戻すことは決して過ちではない。消極策と言われようが、最も得意とする“守備とカウンター”に徹する戦い方で臨むべきであった。

 そして迎えた第2戦、対ルーマニア。ここでのスターティング・イレブンに誤りはなかったが、問題は最初の交代に集約される。1−1の局面、後半残り30分というところで、MFペッロッタを下げFWカッサーノを投入。本来は先にカモラネージを下げ、アンブロジーニを投入すべき局面だが、ドナドーニは布陣を4−2−3−1から事実上の4−2−4へ。明らかな失策である。これでイタリアの守備システムは完全に狂い、攻守のバランスは崩れ、ノーガードの様相を呈すことになった。当然、この手の戦い方にイタリアは慣れていない。徹底した4−4−1−1で背後を固めたルーマニアに最後まで封じられ、逆にカウンターを連続して許す結果となった。そしてPK(後半36分)をGKブッフォンが止めたおかげで、辛くも勝ち点1を手にするも、2戦を終えフランスと並びC組最下位。オランダが決勝トーナメント進出を決めた今、残るフランス戦に勝利し、一方でルーマニアが引き分け以下に終わる状況を待つ以外にない。

 現時点での勝ち点は、オランダ6、ルーマニア2、イタリアとフランスが1。
 ドナドーニの目指す攻撃的な形はひとまず封印し、いわゆる典型的4−4−2で堅く、そして機を見て鋭利に敵の背後を突く本来のスタイルで臨むべきだ。それ以外に今のアズーリは策を持たない。この状況を生んだカンナバーロ不在と、あらためて顕著となった若手センターバックの枯渇化などの検証は大会後に機会を待つとして、今は対フランス戦に生かすべきポイントを正しく見極めなければならない。

 左サイドバックのグロッソがルーマニア陣地を切り崩せた理由、それがペッロッタのスペースを突く動き、オフ・ザ・ボールでのポジショニングにあったという事実。この原点に立ち返り、次の試合に臨む布陣を選ぶべきだ。
 ディフェンスラインは対ルーマニアと同じ(右からザンブロッタ、パヌッチ、キエッリーニ、グロッソ)、要となる中盤は(同アンブロジーニ、ピルロ、デ・ロッシ、ペッロッタ)、そして前線はトーニとデルピエロ。
 繰り返す、これ以外に今のアズーリは策を持たない。

<了>

(翻訳・構成:宮崎隆司)
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著者プロフィール

80年8月5日、リボルタ・ダッダ(クレモナ)出身。ミラノ・カトリック大学法学部卒。16歳にして全国紙『Il Giorno』の学生特派員を務め、大学在学中(2000年)からイタリア・フリーランス協会ホームページ上で本格的に執筆活動を開始。04年にテレビ局(Antenna3 e Telelombardia)入社。ミラン、インテル、ユベントス番記者としてキャリアを重ね、広く“戦術マニア”として知られる。その手腕を買われ今年4月からOdeonTVへ移籍。同局の主要プログラム『Il Campionato dei Campioni』で司会を務める。スポーツ紙『†Corriere dello Sport』にも寄稿。13歳当時、シーズン47ゴール(28試合)を記録。“パオロ・ロッシの再来”と言われながら、ロンバルディア州代表FWとして15歳まで活躍。当時のチームメートに現ウディネーゼMFアンドレア・ドッセーナ、現キエーボFWミルコ・ガスパレットらがいる

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