蘇る開催国、失意の歴将=オーストリア 1−1 ポーランド

中田徹

両チームにとっての“決勝戦”

オーストリアはロスタイムのPKで勝ち点1をもぎ取り、何とか開催国としての面目を保った 【Getty Images/AFLO】

 グループAではスイスが2連敗を喫してしまい、あろうことか今大会を最初に去るのは、開催国になってしまった。そしてグループB、もし12日のポーランド戦でオーストリアが敗れるような事態に陥れば、ユーロ(欧州選手権)2008は開幕わずか6日目にして、共同開催国が2つとも姿を消すことになる。

 まだ大会は2週間以上残っている。今後の盛り上がりを考えても、ここはオーストリアは踏ん張りどころである。しかし初戦でドイツに0−2と敗れたポーランドにとっても、オーストリア戦は落とすことはできない。
「オーストリアにとっても、ポーランドにとっても“決勝戦”」(ポーランドのベーンハッカー監督)
「イチかバチかの戦いで臨む。この試合の勝者だけが大会に残ることができ、敗者は消える」(オーストリアのヒッケルスベルガー監督)

 両チームは2006年ワールドカップ(W杯)予選でも対戦しており、このときはポーランドが2戦2勝している。ブックメーカーは“ポーランド優勢”を示している。
「FIFA(国際サッカー連盟)ランキングでも分かるように、ポーランドの方が強いだろう(ポーランドは28位、オーストリアは92位)。その分国民の期待もポーランドの方が大きく、われわれの方は失うものはない」
 とヒッケルスベルガー監督。しかし、そんなことはないだろう。敗れて失うものの大きさは、ポーランドもオーストリアも変わらないはずだ。両チームにのしかかるプレッシャーは共に大きい。

 そして“決勝戦”が始まった。

オーストリア、試合運びのまずさ変わらずも…最後に

 初戦敗北の痛手から立ち直ったのは、オースリアのようだった。11分、14分とFWハルニクがGKと一対一のチャンスを迎えるが、惜しくもシュートはGKボルツに防がれる。16分にもイバンシッツのスルーパスから、ライトゲープがフリーで抜け出るも、やはりシュートは決まらない。ようやくポーランドが初シュートを放ったのは、20分。この間オーストリアは7本のシュートを放っていた。
 誰がどう見てもオーストリアのペースだった。それでも先制点はポーランド。カウンターアタックからオーストリアの守備網を崩し切り、ロジェール・ゲレイロがフィニッシュを決めた。

 完全に押し込んでおきながら、相手に先制点を許したオーストリア。試合運びのまずさは準備試合の段階でも見受けられた。
 2月6日のドイツ戦でオーストリアは内容的には素晴らしいものを見せたものの、点を奪うのを忘れて、終わってみたら0−3と完敗していた。また3月26日にはオランダ相手に3−0とリードしておきながら、後半に崩れ3−4と信じられないような大逆転負けを喫している。
 ポーランド戦でも同じような内容と展開だった。立ち上がりは「おっ、今日はやりそうだな」と期待させておいて、いつの間にか失点を喫している。だからポーランド戦で、ロスタイムまで0−1とビハインドを追い続けたのは、決して偶然ではなかったのだ。

 ところが、ロスタイムに入った92分。思わぬ判定が起こった。オーストリアがFKを蹴った。ペナルティーエリア内の密集地帯でオーストリアの選手が倒れていた。ウェブ主審はペナルティースポットを指す。オーストリアのPKだ。
 ビデオで見直すとプリョードル(オーストリア)は、レバドンスキ(ポーランド)にシャツをつかまれている。コーナーキックでは日常茶飯事のシーンだ。その一方で、レフェリーはFKの前に選手たちに何やら注意を促していた。ポーランドが先制点以降、試合をコントロールしていたにもかかわらず、ホームチームに対する疑惑のPKで1−1の引き分けに追いつかれてしまった。

43年間の指導者人生の中でも、受け入れられないPK

 試合終了のホイッスルが鳴ると、すぐさまベーンハッカーはピッチの中に入って行き、選手がレフェリーに近づかないよう交通整理をしていた。感情が高ぶったまま選手がレフェリーに接触したら何が起こるか分からないと懸念したのだろう。
 ベーンハッカーだって怒っていた。その怒りはレフェリーにではなく、記者会見でぶつけた。
「ペナルティーエリアの中で何も起こってなかったのに、レフェリーはPKを取ってしまった。私は今まで43年間指導者をしてきて、レフェリーと一度ももめたことはないし、退場になったこともない。でも、今回のPKは受け入れるわけにはいかない」

 一方、オーストリアのヒッケルスベルガー監督は、
「立ち上がりの30分は素晴らしいサッカーをした。勇気、エネルギーに満ちていて、試合を支配した。後半は選手を3人交代して、前半のレベルに戻そうしたが、それができなかった。でもPKのおかげでオーストリアはユーロで初の勝ち点を奪った」
 と1−1の結果に満足していた。

 何はともあれオーストリアが際どく勝ち点1をゲットしたことにより、何とか開催国共倒れの最悪の事態は免れた(負けていても可能性はわずかに残ったが)。オーストリアは1978年W杯で当時の西ドイツを破っているが、その再現を懸け、グループリーグ最終戦のドイツ戦にすべてをぶつける。
 またポーランドにもチャンスはかすかに残っている。しかし、その条件は厳しい。オーストリアがドイツに勝った上で、ポーランドもクロアチアに勝ち、さらにポーランドは得失点差でオーストリアを上回らなければならないのだ。

「すでにトーナメントは終わったと感じている。もう自力では勝ち上がれない。すべては他力本願だ」
 と勝ち点を盗まれて失意のベーンハッカー。それでも首の皮一枚つながったことに違いはない。ビッグトーナメントでまだ勝ち星のないベーンハッカー(1990年W杯ではオランダを率いて3分け1敗、2006年W杯ではトリニダード・トバゴを率いて1分け2敗)は、クロアチア戦に勝って、奇跡のベスト8進出を決めることができるだろうか。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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