沈没したレーハーゲルの船=ギリシャ 0−2 スウェーデン

同じ光景、同じ戦術

前回大会と同じ戦いをしたギリシャだが、4年前と同じ風は吹かなかった 【Getty Images/AFLO】

「過去に偉大な成功を収めたものは、再び同じ成功を収めることができる」
 ユーロ(欧州選手権)2008が開幕する前、ギリシャ代表の今大会の展望の話になると、よく耳にした言葉である。前回のポルトガル大会ではサプライズ以上のサプライズを起こし、大会初優勝を手にしたギリシャだが、監督のオットー・レーハーゲルでさえ、こんな強気な言葉を残している。
「手にしたタイトルを死守しない法律など存在しない」
 それは美しく、哲学者のような言葉だ。だが、私なら彼にこの言葉を贈る。
「ゴールを死守するだけの法律など存在しない」
 それだけ、スウェーデン戦でのギリシャの戦い方は、4年前にギリシャが見せた守備的なサッカーとまるで同じものであった。

 ギリシャとスウェーデンの試合が始まり、信じられない光景を目にした。ギリシャはディフェンスラインに5人のDF(セイタリディス、キルギアコス、デラス、アンザス、トロシディス)をずらりと並べ、さらに守備的MFの位置には2人の選手(バシナス、カツラニス)を配置したのだ。彼らにとって、失点することは致命的な問題であり、得点を奪うことはそれほど優先的なものではなかったらしい。たとえ、初戦を0−0で引き分けたとしても、危険なスウェーデンが相手と考えれば悪くはない結果だと、レーハーゲルは心の中でそう考えていたに違いない。

 ザルツブルクのスタジアムに詰め掛けた観客は、ギリシャの守備的な戦い方をすぐに察知した。「こんな試合を見に来たわけではない!」と言わんばかりの強烈なブーイングがギリシャの選手に浴びせられたが、ギリシャのサポーターは、そんなことはお構いなしと、母国の応援にただ熱中するだけであった。

 テレビ中継では分からないかもしれないが、試合開始から後半20分頃まで、ギリシャのディフェンス陣はスウェーデンのFWイブラヒモビッチを徹底的にマークをしていた。彼の攻撃力と突破力を恐れることは普通のことだが、最低4人、多いときには6人の選手が、彼を中心とするスウェーデンの攻撃を守るべく自陣に引いていた。
 ギリシャは相手からボールを奪ったときでさえも、素早いカウンターから攻撃を仕掛けるといった一連の動きを見せなかった。むしろ、ゴールを奪うという意欲すら感じなかったほどだ。
 だが、守備的な戦いをかたくなに固持してきたギリシャの戦術に、スウェーデンの選手らは見事にはまってしまった。ギリシャが中盤から両サイドにかけて構築した分厚い壁は、スウェーデンの選手がボールを支配することを苦しめ、まるでゴルフのバンカーのごとく、相手の戦術から抜け出せなくなっていた。さらに、背の高い選手を擁するディフェンス陣相手では、いくらスウェーデンと言えども、簡単に空中戦を支配できるほど容易ではなかった。

崩れた守備のコンセプト

FWイブラヒモビッチ(中央)のゴールが決まり、ギリシャの守備は崩壊した 【Getty Images/AFLO】

 ギリシャは、セットプレーやミドルシュートから得点を奪うことを得意とするチームで、実際にそれは彼らの大きな武器である。もう一つの要因を挙げるとしたら、それは、対戦相手のミスによって生まれる得点だ。事実、デラスのクロスボールからスウェーデンのDFハンソンがあわやオウンゴールという場面もあった。仮に、ギリシャがそのような場面で得点を奪っていたら、その後の展開は容易に予想がつく。スタジアムに詰め掛けた観客、そしてテレビ観戦をしていた世界中のサッカーファンは、ギリシャのサッカーを執拗(しつよう)に非難していたに違いない。

 しかし、レーハーゲルの守備戦術は崩れた。試合後、前回大会を優勝に導いたドイツ人は、スウェーデンのディフェンスが非常にコンパクトであったこと、ギリシャの選手がゴールを奪えるコンディションではなかったこと、そして何人かの選手が期待していたほどのプレーをしなかったことを、敗因として語った。
 守備的な戦術を採ったことについては以下のようなコメントを残した。
「仮に、今日の試合のような(守備的な)戦い方をしていなかったら、前半が終わった時点で0−5という結果もあり得たわけだ。0−0という結果もあり得たし、それ以上のポジティブな結果を手に入れるチャンスはあった」

 今後、ギリシャがロシア、スペイン戦で戦術を変えてくる可能性は低い。サッカーをすることは「失点しない」ことではない。そして、「相手のミスを待つ」ことでもない。前回大会では、彼らが信じる守備的なサッカーというコンセプトの下で、優勝を手にすることができた。果たして、今大会でもそのコンセプトに変わりはないのだろうか。

 一方で、スウェーデンは勝利に値するチームであった。いや、ギリシャ戦に限って言えば、勝利以上に値する何かがあった。常に攻撃的な姿勢を見せ、賢さを合わせ持ったプレーを披露し、守備面では、ギリシャにカウンター攻撃をさせず、得点を許さなかった。ゴールチャンスは数えるほどだったが、分厚い守備は相変わらず健在であった。時期尚早だが、イブラヒモビッチの先制点の場面は、今大会のベストプレー候補に挙げられるだろう。

<了>
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著者プロフィール

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

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