オランダ、イタリア戦勝利のエッセンス=オランダ 3−0 イタリア

中田徹

ファン・バステン監督の思い切った先発起用

オランダはイタリアに3−0で快勝。オーイヤー(右)の先発起用など、ファン・バステン監督の采配もさえた 【Getty Images/AFLO】

 オランダのファン・バステン監督は、ユーロ(欧州選手権)初戦となったイタリア戦で思い切って先発メンバーをいじってきた。今季オランダリーグのMVPを獲得し、充実したシーズンを過ごしたハイティンハをベンチスタートとし、オーイヤーをセンターバックに起用。セビージャでほとんど出場機会のなかったブラルースを右サイドバックに置いた。またセントラルMFもこれまでレギュラーと目されていたデ・ゼーウに代え、デ・ヨンを抜擢した。

 ファン・バステン監督は、“トーニ番”を務めたオーイヤーについて「アンドレ(オーイヤー)はセンターバックとしての経験が深い」、ディ・ナターレ封じを命じたブラルースについては「ハリド(ブラルース)はスピードがあるから」と説明。またデ・ヨンの起用は明らかに中盤の守備の強化で、ボールのデリバリー役であるデ・ゼーウはイタリア戦での構想から外れた。この3人はイタリア戦で、「チームの“ボディー”だった」とファン・バステン監督を喜ばせる活躍を見せた。エンゲラールもまた、”ボディー”としてチームにパワーを与えた。

 今年に入って4−3−3から4−2−3−1にシステムを変えたオランダだが、デ・ゼーウとファン・ブロンクホルストで組む“2”(セントラルMF)のポジションの軽量ぶり、パワー不足が懸念されていた。だが、トゥエンテで昨季ブレークしたエンゲラールが大会直前の準備試合でオランダ代表のレギュラーに定着し、中盤にパワーが生まれた。エンゲラールは196センチという大型MFながら、28歳にしてようやくオランダ代表の常連になった超遅咲きの選手である。

 試合後、ファン・ニステルローイは、「前線からプレスを掛け、イタリアをなるべくオランダ陣内から遠ざけるような作戦をとった。ルカ・トーニのような強力なストライカーのいるチーム相手には、とりわけ有効な策だった」と語った。これがうまく機能したのも攻撃陣の守備での頑張りもあったが、エンゲラールとデ・ヨンによるパワーとボール刈り、巧みなポジション取りがあったからこそだった。
 オランダはGK(ファン・デル・サール)と攻撃の4人はワールドクラス。加えて、イタリア戦では守備陣6人が攻守にわたり、前目の選手とハーモニーを築いた。オランダがイタリア戦で見せた猛攻のベースは、まずは守備陣の整備にあった――と、そこは強調しておきたい。

主力不在も動揺なし

 イタリア戦前、ロッベンがそけい部を痛め、全治1週間と診断された。ファン・ペルシもフィジカル的には負傷は治ったが、試合勘が乏しく「僕のために1試合、練習試合を増やしてくれ」とファン・バステン監督に直訴していたほどだった。大会前には、バベルがけがで登録メンバーから漏れていた。
 これだけ主力選手が欠けても、オランダは動揺していなかった。イタリア戦2日前、オランダ人記者はこう言って胸を張った。
「ロッベンのけがは大した問題じゃないよ。俺たちにはたくさんのタレントがいる。左にそのままアフェライを入れてもいいし、右にカイトを入れて、スナイデルを左に回してもいい。ほら、大丈夫だろ!?」

 イタリア戦では結局カイトが起用され、ファン・デル・ファールト、スナイデルと魅惑の攻撃的MFを組んだ。今年に入って春までは、4−2−3−1の戦術に合わないこと、リバプールでの不調を理由に代表落ちすらしていたカイトだが、しっかり本番で答えを出した。

 先発をめぐる話題に大きく紙数を割いたが、ここがイタリア戦で3−0と快勝したオランダのエッセンスであった。今まで指揮力と指導力に疑問符がつきまとっていたファン・バステンだが、ようやくイタリア戦で会心の采配(さいはい)を振るったと言えるだろう。
「歴史的勝利。世界チャンピオンに3−0だ」
 ファン・バステン監督は、喜びをあらわにしてテレビのフラッシュインタビューに答えた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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