「求ム、魂!」 開催国の危機=スイス 0−1 チェコ

中田徹

上品な(?)スイスの人々

ユーロ開幕戦でけがを負い号泣するスイス代表FWフレイ 【Getty Images/AFLO】

 今回のユーロ(欧州選手権)はスタジアムの規模が小さく、ファンにとってはチケットの入手が異常に難しい。バーゼルでの開幕戦キックオフ30分前、スタジアムの周囲にはチケット難民が「俺をスタジアムに入れろ!」とフェンスをガンガンたたいていた。
 ジャーナリストにとっても、今大会は試合を見るのが難しい。ラッキーなことに大会のアクレディテーション(取材許可証)をもらえても、試合を観戦するためのチケットは別物で、なかなか手に入らない。何とか僕もキャンセル待ちの結果、開幕戦のスイス対チェコのチケットをもらえることになった。

 これだけチケット狂騒曲がすさまじいのだから、開幕戦を直前に控えた地元スイスの盛り上がりもすごかろうと思われるが、そうでもなかったらしい。通信社はキックオフ2時間前のバーゼル市内の様子をこう配信している。
「チェコのサポーターが騒いでいるだけで、スイスのサポーターはほとんどいない。悪天候の影響か、雰囲気は乏しい。町は雨が降っている。『ドイツ・ワールドカップ(W杯)のときのような素晴らしい雰囲気ではないね』とチェコから来たサポーターは語った」

 チケットのキャンセル待ちに集中しなければならなかった僕は、実際に町に出掛けることはできなかった。そこでスイス対チェコのハーフタイム、ドイツ在住の友人記者に町の様子を確認したところ、
「町にはそれなりにスイス人はいましたよ。記事ほど静かではなかったです」
 とのことだったが、彼は続けて言った。
「それにしてもスタジアムの中が静かで、スイス人は上品ですね」

 キックオフ前の開幕式は沸きに沸いた。その余韻が残った開始20分ほどはスタジアムの雰囲気も盛り上がった。その間、スイスは押しまくった。しかしパスの配給役として機能していたインレルをチェコが厳しくチェックし、試合がこう着し始めると、試合のリズム同様スイスのサポーターも大人しくなり、ピッチに見入るようになった。ここでよぎったのが、先に紹介した通信社の記事の締めくくりだ。
「スイスが勝てば、きっと試合後の町は盛り上がるだろう」
 しかし、スイスは開幕試合を0−1と落としてしまった。開催国、ベスト8進出に向け危うし――である。

響いたフレイの負傷退場

 スイス対チェコのブレークポイントは前半終了間際、スイスの主将フレイの負傷退場だった。

 スイスのMFフェルナンデスが激しいチェックでチェコボールを奪取、すばやく縦にバルネッタ、フレイとつないだ。そこへグリゲラが足を入れて飛び込み、フレイは左ひざを痛めてしまった。
 フレイは半泣きになりながら、ベンチ前まで連れてこられた。控え選手はいっせいにフレイの周辺に集まって心配そうに見詰めている。すぐに試合出場続行は不可能と分かったのだろう、1人の選手がデルディヨクに向かって「早くアップを切り上げて出場の準備をしろ!」と手で合図した(実際には後半開始時ハカン・ヤキンが入った)。

「アーレックス!」。フレイに向かってこう叫ぶスイスのサポーター。チェコのサポーターからも大拍手を受けたフレイは、涙を流しながら控室へ戻って行った。フレイは前半だけで3本の惜しいシュートを放っていた。

 後半、ハカン・ヤキンがトップ下でプレーし、フレイがいたときとは別のリズムで戦ったスイスだが、1トップのシュトレラーが全くいいところなく不発に終わった。
 チェコは71分、オフサイド崩れからスベルコシュが難しいシュートを決め、これが決勝点となって際どい試合をものにした。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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