杉内の“絶対に負けられなかった”マウンド
マウンドで感じていた熱い視線
ただ、それ以上にこの試合は勝ちたかった、いや“絶対に負けられなかった”。
「試合を見ているのは知っていましたよ。だって、ベンチのすぐ横の部屋にいるのがグラウンドから見えるんだもん」
マウンドで感じていた熱い視線。それは、米国でのリハビリから一時帰国している斉藤和巳のものだった。
「あの人の前でみっともないピッチングはできないですよ。頑張ろうと思いました」
アニキであり、ライバルでもある
「昨年(06年=斉藤は2度目の沢村賞を獲得)の斉藤和巳さんは確かにすごかったです。これが戦う姿勢だと痛感しました。ことしはカズミさん超え、いや“カズミ”超えに挑戦したいと思います」
3つ年上の先輩を呼び捨てにしての挑発。“体育会系”の世界ではご法度である。しかし、斉藤は笑顔で杉内を捕まえて「言ってくれたな、コイツ」という感じで頭をポンとたたく。じゃれ合う杉内も笑顔。ライバルでもあり、兄弟のようでもある。
右肩手術を受けた斉藤が不在の今季、王貞治監督は杉内を「うちのエース」と表現している。しかし、杉内は首をかしげる。
「エースという意識はないですね。高校野球ならそんな気持ちになるかもしれないけど、プロは6人の先発がそれぞれ頑張らなくてはならない。自分の投げる試合で負けないように頑張っていますよ」
さらにこのような話もした。
「カズミさんがいない分、それを背負ってとはあまり思っていないんですけどね」
しかし、4月末時点で杉内は1勝3敗だった。初めての開幕投手を任され、明らかに「背負って」投げていた。自身も「抑えなきゃいけないと、力任せに投げていた」と振り返る。
6月以降へ確かな手ごたえ
そして、力が入りやすくなる巨人戦でも、杉内は1失点完投勝利と素晴らしいピッチングを見せた。
「上半身の力を抜くんだと1球ごとに意識をしていました」
2年連続で5月度の月間MVPを受賞したこともあり、すっかり「ミスターメイ」などと呼ばれているが、杉内は「6月以降の白星を積み重ねていきますよ」と不敵に笑った。確かな手ごたえをつかんだ今、それが実現される可能性は極めて高いと言えるだろう。
<了>
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