フェルナンド・トーレス「スペインの人々の期待に応えたい」 新世代の象徴が語るスペイン代表の未来

●●“エル・ニーニョ”の愛称で親しまれるスペイン代表の新エース、フェルナンド・トーレス。その端正なルックスとスタイルがもたらす人気もあるが、サッカー選手としての評価は、それをはるかに上回る。溢れるスピードに力強いポストプレー、空中戦の高さ、DFとの駆け引きの巧み、そしてゴール前での冷静さと、すべてを兼ね備える万能型FW。スペイン代表におけるビジャ、グイサとのハイレベルなFW争いの中でも、ファーストチョイスとなっている。

 トーレスは15歳のときにアトレティコ・マドリーと契約し、17歳でトップチームにデビュー(当時2部)。その後リーガ・エスパニョーラ214試合に出場、82ゴールの実績を引っさげて、昨シーズンはイングランドへと渡った。リバプールでは1年目ながら33試合に出場し、24ゴール(得点ランキング3位)を挙げる活躍。当初は懐疑的だった“サッカーの母国”のメディアをうならせた。

 スペイン代表は近年、ビッグトーナメントで常に優勝候補に名前を挙げられながら、その期待を裏切り続けている。前回のユーロ(欧州選手権)2004では、トーレス自身2試合に出場するも、得点を挙げられないままグループリーグで敗退。国民を失意の底にたたき落とした。あれから4年――再びユーロへと向かう24歳の青年トーレスは今、何を思っているのだろうか●●

今回のスペイン代表は国民をがっかりさせない

フェルナンド・トーレスは、スペイン代表の新たな歴史を作れるか 【Photo:なかしまだいすけ/アフロ】

――スペインは64年にユーロ優勝を果たしているとはいえ、なぜビッグトーナメントでいつも力を発揮できないのだろうか?

 僕にも分からないけれど、スペイン代表はいつもそうした非難を受けている。ただ、こんなことはあえて言いたくはないけれど、“スペイン”と一口に言っても、その時々でチームの状態もシチュエーションも違う。その時によって違った説明ができるはずだ。それなのに、常に人々からスペイン代表に対して厳しい目が向けられるのは、正直なところ、つらい。
 スペインではビッグトーナメントを前にしても、代表チームが信頼されていないのは、よく知られた事実だ。もしかしたら、過去に過度の期待をして代表チームに裏切られた経験があるから、今は人々の期待値が下がっているのかもしれない。リーガ・エスパニョーラの影響が大きいこともあるだろうね。欧州の中でもリーガのチームは強いから、同じように代表にも強さを求めているんだ。実際、本来はそうあるべきだし、僕らもいつかスペインの人々の期待に応えたいと思っている。

――今大会でのスペインはそれができると?

 そうだね。スペインは新しい世代が新しい歴史を作っていると思う。例えば、かつては国外でプレーする選手は数えるほどしかいなかったから、どうしても精神的に弱く内弁慶なところがあった。でも今は、スペインの選手が世界中から求められるようになって、僕も含めて海外でプレーする選手が増えてきた。そうやって経験を積んだこともあって、ユーロ予選でも本大会前の親善試合でも、僕らはいいパフォーマンスを見せている。今回はチームに大きな期待を持っているし、チームとしてやってきたことに自信を持っているんだ。
 とはいえ、前回大会でも僕らは苦戦して、結局決勝トーナメントに進めなかったことは忘れてはいない。優勝候補と言われていたのに、悪者扱いされたからね……。

――過去に人々の期待を裏切ってきたスペインと、今の代表との違いを詳しく言うと?

 まず今までと違うのは、今回のスペイン代表は国民をがっかりさせない――もちろん保証できるものではないけれど――ということだ。僕はこれまでのようなことは起こらないと信じている。
 それに、さっき言ったことに加えて、今のスペインにはルイス・アラゴネスという良い監督がいて、チームに指針を与えてくれる。すなわち、ボールのタッチ数を多くしてポゼッションを高め、スペースを探すスタイルだ。攻撃を中核を担うのは、“クワトロ・フゴーネス”(4人の創造者)と呼ばれる中盤のセスク、シャビ、イニエスタ、シルバ。彼らのボールさばきと繰り出されるパスは、素晴らしいの一言だよ。スペイン代表は“La Furia Roja”(ラ・フリア・ロハ=赤い激情)と呼ばれているけれど、怒りはほどほどにして、試合に集中したいね。その方が僕らにとってもいいはずだ。

僕らは今、確かな道を歩んでいる

――スペインの入っているグループDは、簡単に勝ち抜けられる組ではないと思うが

 もちろん、簡単なグループなんてひとつもないと思う。(開催国を除いて)どのチームも予選を勝ち上がってきたんだからね。楽なグループがあるなら教えてほしいくらいだよ。弱いと言われているチームでも侮れないことは、前回大会でギリシャが優勝したことからも分かるはずだ。スペインとしては、どれだけ勝負強さを発揮できるかが重要になってくると思う。それができれば、3試合が終わった時にスペインの決勝トーナメント進出が決まっているはずだ。


――スペインには君をはじめ、セスク、カシージャス、ビジャ、セルヒオ・ラモスら才能溢れる若手選手が多い。それはかつてのスペインには見られなかったことだ

 それについては、ユーロが終わって何年かして、ひとつのサイクルが完成したときに初めて、何らかの総括ができるんじゃないかな。今はまだ、僕らは成長過程の途中だという気がしているんだ。とはいえ、過去のスペイン代表と比べても、僕らは正しい道を進んでいると思う。ただ自分たちの力を過信しているわけではなく、ライバルをリスペクトしているつもりだ。フランスやスウェーデン、イタリアといった強力なチームがあることは分かっているし、予選ではデンマークにも苦戦していたんだからね。

――将来のスペインは、今よりタイトル獲得のチャンスが増えると思う?

 それは予測不可能だよ。それを知るためには、占星術でも学ばないと(笑)。ただひとつ言えるのは、僕らは今確かな道を進んでいて、そのまま歩みを止めることはないだろうということだ。いい練習をして前に進めば、いいフットボールができると思う。一般的には、チームに一本筋が通っていて首尾一貫した戦いができれば、より良い成績が収められるんじゃないかな。もちろん、プレーしているのは選手という“生もの”だから、結果は分からないけれど……。
 思い出すのは、バスケットボールのスペイン代表だ。彼らはかつて全然勝てなかったけれど、今ではワールドチャンピオンになった。つまり、勝ち始めるまでは何も得られないということだ。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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