ムトゥ「今度は僕らが“奇跡”を起こす番だ」

●●8年前のユーロ(欧州選手権)2000で、ルーマニアはドイツ、ポルトガル、イングランドといった強豪国がひしめく“死のグループ”に入った。世界中のメディアは“アウトサイダー”としてグループリーグ敗退の最有力候補として挙げた。しかし、ルーマニアは、1勝1分け1敗の2位で“死のグループ”から生還し、ベスト8に入る快挙を成し遂げた。
 あれから8年、ルーマニアは再び“死のグループ”に入った。だが、エースストライカーのアドリアン・ムトゥは悲観していない。今季、所属のフィオレンティーナで17ゴールを挙げ、セリエA得点ランキング4位に名を連ねたムトゥは、ルーマニア代表でも予選でチーム最高の6ゴールを記録。オランダを抑えて予選1位通過の原動力となった。コカイン使用による長期間の出場停止を乗り越え、再びキャリアの絶頂期を迎えているムトゥ。今大会で狙うのは、もちろん2000年大会の再現だ●●

プレッシャーはルーマニア以外の3カ国にある

ルーマニアのエースとして期待がかかるムトゥ。ユーロ2008での活躍を誓う 【Getty Images/AFLO】

――ユーロ開幕が迫ってきたけれど、今どんな気持ちでいる?

 すごく期待しているよ。長い間ユーロ2008を待ちわびていたからね。ルーマニアはすごく厳しいグループ(イタリア、フランス、オランダと同じC組)に入ったけれど……。それでも僕らは楽観的に考えているし、一つずつ試合に勝って、次のラウンドに進めればいいと思っている。結果はふたを開けてみなければ分からないけれど、大切なのは僕らが対戦するのは決して生易しい相手ではないということを、きちんと認識することだ。そのためには、選手一人一人が責任を持たなくてはならない。もちろん、過度なプレッシャーは禁物だけどね。むしろプレッシャーがかかるのは、強豪国と言われているルーマニア以外の3カ国だと思う。

――ルーマニアの目標としては、グループリーグ突破ということになるのだろうか?

 そうだね。さっきも言ったように、まずはそれが目標になると思う。客観的に見れば、ルーマニアはグループCの中で一番下にいるからね。あとの3カ国は大会の優勝候補とも言えるチームだ。だから、僕らにはプレッシャーなど全くない。

――ルーマニアの強みは?

 強みか……それは野望じゃないかな。僕らはまだ若いチームだけど、力は持っていると思う。ユーロの予選でも、オランダを抑えて首位通過を果たしたからね。そういう意味では、僕らはすでにオランダを倒したとも言える。本大会でもいい結果を残してファンにアピールしたい。そして、ルーマニアの名前をできるだけ高いところに引き上げたいんだ。どうなるかは分からないけれど、僕らは全力を尽くすつもりでいるよ。

――じゃあ逆に弱点はどういうところ?

 どうだろう……。まずは自分たちのベストを尽くして、弱点については後で考えたいね。

――ユーロの歴史において、結果を残してきたチームはやはり今大会でも力を発揮すると思う?

 ほかのチームの歴史が重要だとは思わない。ルーマニアには僕らの歴史がある。人々で埋め尽くされたスタジアムでプレーすることは楽しみだし、今大会もハイレベルの戦いが繰り広げられるだろう。ユーロはルーマニアのフットボール界にとって重要な大会だし、僕らの子供のころからの夢でもあるんだ。

――本命はどこだと思う?

 2つか3つ挙げられると思うけど、すべて僕らのグループにいるんじゃないかな(笑)。ここには世界チャンピオンと世界2位のチームと、ヨーロッパのタイトルを取りたくて仕方がないチームがいるからね。

――2004年の前回大会で優勝したギリシャのように、ダークホースにもチャンスがあるだろうか?

 多くの人はそれを期待しているんじゃないかな。今度は、それが僕らの番だったらいいと思うよ。でも“奇跡”っていうのは、100年に1度くらいしか起こらない方がいいのかもしれないけれど。

ユーロで活躍する選手はC・ロナウド。そして僕自身だ

――ユーロで活躍する選手は誰だと思う?

 クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル代表、マンチェスター・ユナイテッド)のように、すでに欧州のフットボールシーンでビッグスターとなっている選手は活躍するだろうね。そこに、アドリアン・ムトゥの名前も加わるかもしれないけれど(笑)。ポルトガルやイタリアといったチームは、常にビッグプレーヤーをたくさん輩出している。彼らはこういった大きな大会で戦うすべを知っているんだ。

――若手選手で注目株は?

 そうだな……フランス代表のベンゼマ(リヨン)は今大会でスターになる可能性を秘めていると思う。それから、すでにビッグネームだけれど、やっぱりC・ロナウドは外せないだろうね。

――対戦したくないチームはある?

 何て言えばいいんだい? 僕らルーマニアは、すでにグループリーグで3強と戦わなければならないのに。僕自身は彼らと戦いたいけれど、グループリーグではなく、もっと後だったら良かったのにと思う。そうなれば、どのチームが来たって構わない。それはつまり、ルーマニアが決勝トーナメントに進出したということだからね。

――グループリーグで対戦する3カ国について聞かせてほしい。フランスをどう思う?

 ジダンがもういないのはラッキーだと言えるけれど……。フランスは去年は決していい戦いをしていたわけではないけれど、とてもタフなチームだ。常にビッグプレーヤーが何人かいるし、今だったらベンゼマやリベリー(バイエルン・ミュンヘン)は驚異的だね。フランスはいつだって手ごわいチームだ。

――オランダについては?

 オランダはとてもいいチームだと思う。オランダの選手はテクニックがあるし、特にファン・デル・ファールト(ハンブルガーSV)とロッベン(レアル・マドリー)は僕の好きな選手なんだ。オランダには予選で勝っているし(1勝1分け)、本大会のグループリーグでの対戦も楽しみにしている。

――イタリアはどうだろうか?

 トーニがいなかったとしても、イタリアは世界チャンピオンになれると思う。ほかにもワールドクラスの選手をそろえているからね。そこにトーニが加わったら百人力だよ。フィオレンティーナでチームメートだったトーニはどんな状況でもゴールを決める。僕はイタリアのフットボールのことはよく知っているし、ほとんどの選手とセリエAで何回も対戦している。唯一の問題は、僕がまだイタリアに一度も勝てていないということだ。今回そのジンクスを破ることができれば、素晴らしい結果につながると思う。

<了>
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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