「強打者」への道を歩み始めた若鷹

田尻耕太郎

ウエスタン・リーグで首位打者

1軍昇格が決まった中西。三冠王という大目標へ向け、まずはその第一歩となるプロ初安打を狙う 【田尻耕太郎】

 現在3割3厘でウエスタン・リーグの首位打者をひた走る若鷹が、ついに1軍デビューを果たした。
 4年目の外野手、中西健太。5月28日に1軍登録され、29日の横浜戦(北九州)の8回表に代打で出場した。結果は空振りの三振。「めっちゃ悔しいです」と唇を噛んだが、名前をコールされたと同時に沸き起こった歓声には、「とても気持ち良かったです」と笑顔を見せた。

 中西はことしを「勝負の年」と位置付けている。昨季までは捕手だったが、秋季キャンプから外野手に転向した。高校3年夏の甲子園大会で、ダルビッシュ有(現・北海道日本ハム)から2安打を放つなど、プロ入り前から定評があった打撃を生かすためだった。また、中西は捕手としての送球に不安があった。今のチーム状況では、2軍戦でもそれに目をつぶって起用し続けることは難しい。昨季は2軍戦でも33試合しか出場することができなかった。
 このコンバートについて、1軍首脳陣は「1軍の捕手が固定出来ていない中で、打撃に期待できる若い才能をほかに回すことはない。送球難はいずれ修正できる。そうすれば捕手に戻せばいい」と話していた。しかし、石渡茂2軍監督の考えは違っていた。
 「最初にコンバートを打診したのは昨年の7月頃。ただ、彼はすぐに返事をしなかった。しっかりと考えなさい、と言ってようやく秋頃に私のところにやってきました。外野手で頑張りますとはっきりと言ってきたので、私は言いました。もう後戻りはできないよ、と」

「自分のため」と居残り練習

 強い心構えは、デビュー翌日の彼を見れば明らかだった。1軍は軽い全体練習だけのこの日、中西は雁の巣球場のウエスタン・リーグ(サーパス戦)に出場した。ここまでは特に珍しいことではない。目を見張ったのは試合後の彼の行動だった。
 ホークスのファームは試合後に必ず練習を行う。1軍の選手に参加義務はないが、中西はグラウンドに出て行った。ロングティーを行い、特打の際には外野で守備練習。周りの選手が少しずつ引き上げる中、今度はバックネットの側でティー打撃を行った。
「自分のためですから」
気付けば、空色は濃くなっていた。

「捕手から野手」は強打者に!?

 プロ野球界で捕手から野手に転向して成功した選手は多い。小笠原道大(巨人)、山崎武司(東北楽天)、和田一浩(中日)、江藤智(埼玉西武)など、球界を代表する強打者の名前が次々と出てくる。
 中西の将来像は……。
「打率3割を打てる打者にもなりたいし、長打力でも勝負したい。やっぱりホームランを打つと気持ちいいですからね。そうなると、三冠王を獲れる打者かな」
 笑いながら大きな目標を掲げてくれた。
 31日からは本拠地ヤフードームで巨人戦だ。多くの野球ファンの注目が集まる一戦で、大きな夢への「初めの1本」を打つことができるだろうか。

<了>
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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