伝統の復活か、サプライズの継続か=欧州記者のユーロ2008展望 第3回

鍵を握るのは選手のコンディション

ユーロ2004は伏兵ギリシャが優勝。今大会は再びサプライズが起こるのか、強豪国が勝利するか 【Getty Images/AFLO】

 スイスは6月7日、地元バーゼルのザンクト・ヤコブ・パークで、チェコとのユーロ(欧州選手権)開幕戦に臨む。4年前のポルトガル大会で伏兵ギリシャが優勝したように、ユーロでも本命以外の国が予想外の活躍を見せるようになった。スイスとオーストリアの共催で開催される今大会、再びサプライズは起こるのか。あるいは、これまでのように伝統的な強豪国が王座に就くのだろうか。

 13回目を迎えたユーロにおける最大の衝撃は、何と言ってもイングランドの不在だろう。フットボールの母国はクロアチア、ロシアの後塵を拝し、予選で姿を消した。プレミアシップはいまや世界一の呼び声高く、今シーズンの欧州チャンピオンズリーグ(CL)でも、決勝に進んだのはマンチェスター・ユナイテッドとチェルシーのイングランド勢だった。プレミアシップのチームの主力メンバーに外国人選手が多いという議論はあるものの、それでもイングランドがユーロ本大会の舞台にいないのは驚きである。

 16チームのうち、果たして6月29日の決勝で勝者となるのはどの国だろうか? 鍵を握るのは、主力選手のコンディションだ。長いシーズンの間に蓄積した疲労や、負傷個所の回復具合を考慮に入れる必要があるだろう。特にイングランド、スペイン、イタリア、ドイツといった主要リーグのビッグクラブに所属する選手たちは、カップ戦も含めて多くの試合を戦ってきているのだ。
 ユーロ2004でも、シーズン終了後でフィジカル・コンディションを落とし、低調なパフォーマンスに終始した選手が続出した。2年前のワールドカップ(W杯)・ドイツ大会でも同様だった。いまや、各国リーグのスケジュールは、選手たちに休息する十分な時間を与えてはくれない。こうした事情もあり、近年は決して優勝候補とは言えないアウトサイダーが健闘する現象が起きている。あまり海外でプレーする選手のいない中堅国などは、自国リーグを早めに終わらせ、万全の状態で大会に臨むことも可能だ。

ポルトガルの1位通過は堅いグループA

 ポルトガル、スイス、チェコ、そしてトルコが入るグループAは、各国の力が拮抗(きっこう)していると見る。4チーム共に近年ユーロ史上で成功を納めた経験はなく(チェコはチェコスロバキア時代の1976年大会で優勝しているが、はるか昔の話だ)、ポルトガルも自国開催だった4年前の準優勝が最高成績。とはいえ、ポテンシャルから見て、ポルトガルがグループ1位通過を果たすのは、ほぼ間違いないと言えるだろう。前回大会と大きくメンバーは変わっておらず、チームは成熟しつつある。CL決勝まで戦ったクリスティアーノ・ロナウドの疲労度は心配だが、今大会見逃せない選手の一人だ。また、中盤をつかさどるデコも、所属のバルセロナを去ることは確実と言われ、フィジカル的にも精神的にも疲弊しているのではないか。だが、試合となれば2人とも力を発揮するだろうし、グループ内での優位は揺るぎない。

 スイスは地元の利を生かして、2年前のW杯でグループリーグを突破した時の再現を狙いたいところだ。チェコは“ネドベド時代”の終焉(しゅうえん)を迎えたが、ルイス・フィーゴが去ったポルトガル同様、能力のある新世代が台頭してきている。そして、前回のユーロ、そして2年前のW杯と2大会連続でビッグトーナメントへの出場を逃したトルコは、ようやく待望の舞台に戻ってきた。過去の教訓を生かし、ユーロ2000で成し遂げたベスト8以上の結果を残したいところだ。

グループBで頭一つ飛び抜けているドイツ

 グループBでは、明らかにドイツが頭一つ飛び抜けている。自国開催だった2年前のW杯でも3位という好成績を収めた。指揮官はユルゲン・クリンスマンからヨアヒム・レーブに代わったが、前任者時代にサブだった選手がスタメンに定着するなどの変化はあったものの、メンバーの大枠は変わっていない。

 驚きの一つと成り得るのはポーランドだ。予選ではポルトガルを抑えてグループA首位通過を果たした。メンバーのほぼ半分が欧州の国外リーグでプレーしており、予選では拮抗(きっこう)したゲームを粘り強くものにしてきた。
 クロアチアは、恐らくヨーロッパで最も南米的なチームと言えるだろう。前回のW杯に出場した選手が経験を積み、ベテランとアタッカー陣を中心とする若手がうまく融合している。本来の力を出せば、グループリーグ突破も見えてくるだろう。オーストリアは、昨年のU−20W杯でベスト4の立役者となったマーティン・ハルニクら若手に才能溢れる選手がいるが、まだまだ発展途上。地の利を生かしても、グループ突破は厳しいか。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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