今大会の“ダークホース”はロシア=欧州記者のユーロ2008展望 第2回

 ユーロ(欧州選手権)2008本大会を展望する前に、今私が抱いている正直な気持ちを打ち明けよう。
「ユーロ2008が、参加16カ国で行われる最後の大会とならないことを心から願う」 UEFA(欧州サッカー連盟)に従事する一部の人間にとって、金はスポーツよりも重要なものであることは私の目には明らかである。今後のユーロが参加24カ国と肥大化することだけは避けなければならず、UEFAに加盟する約半分近くの国々が参加する大会など、ヨーロッパサッカー界にとって全くいいアイデアとは言えない。

 ユーロ2008に関して言えば、過去のユーロ2000、ユーロ2004のように激しく、大変興味深い大会になることを願う。少なくとも、2006年のワールドカップ(W杯)・ドイツ大会よりもマシなサッカーが見られる大会になることを願いたいものだ。そして、開催国のスイスとオーストリアでは、暴力(言い換えればフーリガン)とは無縁なフェアな大会が見られることを期待してやまない。

グループA:ポルトガルは確定 ロシツキ欠場のチェコには期待できない

 ポルトガルは前回大会のファイナリストで、2006年のドイツW杯ではベスト4まで進出した。ルイス・フェリペ・スコラーリという有能で経験豊富なブラジル人監督の下、チームの完成度は成熟の域に達している。予選では本来の力を出し切れず苦戦を強いられたが、グループA突破の最有力候補に疑いはない。今季、イングランド・プレミアリーグで大活躍を見せたクリスティアーノ・ロナウドが本大会でも同じようにトップフォームを維持することができれば、ポルトガルのグループ突破は確定したと言ってもいいだろう。チーム内にスーパースターが存在することは、それだけ大きな意味を持つものだ。

 2位争いは熾烈(しれつ)な戦いとなりそうだ。どのチームにもチャンスがあるように見えるが、私はスイスがグループリーグ突破を果たすと予想する。やはり、開催国には大きな後ろ盾が存在し、何より決勝トーナメントに進出するだけの戦力を擁している。

 チェコにも可能性を残す。が、ロシツキのいないチェコに何を期待すればよいのだろうか。前回大会でチェコは、ポルトガルと並んで大会に旋風を巻き起こしたチームの一つだった。だが、当時チームをけん引していたネドベド、ポボルスキ、そしてロシツキは今大会では見られない。FWのバロシュやコラーは全盛期のプレーを忘れたらしく、過去の選手となりつつある。大会後に退任が決定している名将ブリュックナー監督の有終の美を飾りたいところだが…。

 トルコも決して侮れないチームであるし、決勝トーナメントを狙えるだけの戦力を持ち合わせている。トルコ系移民はヨーロッパ全土にわたっており、彼らの応援が大きな力になることは間違いない。だが、私の予想はポルトガルとスイス。この2チームがグループリーグを突破すると予想する。

グループB:優勝候補のドイツと野心溢れるクロアチア

巧みなパスで攻撃陣をけん引するモドリッチ。クロアチアは今大会注目チームの一つだ 【Getty Images/AFLO】

 グループBの予想は最も容易だ。ドイツとクロアチアの2チームである。もちろん、サッカーにおいて絶対という言葉は存在しない。俗に言われる「何が起きるか分からないのがサッカー」であるなら、オランダ人のベーンハッカー監督率いるポーランドがドイツやクロアチアをグループステージで大会から追いやることだって可能である。

 ただ、オーストリアはアウトサイダーと言わざるを得ない。ヨーゼフ・ヒッケルスベルガー監督が指揮するオーストリアだが、正直、ヨーロッパや世界の大会史上、開催国チームがこれほど期待されていないのも珍しい。オーストリアが仮にグループを突破することになれば、それはまさにセンセーション以外の何ものでもない。

 ドイツはグループB突破の大本命だけでなく、今大会の優勝筆頭国の一つだ。2006年のドイツW杯では、世論に反して素晴らしいプレーを見せたことは記憶に新しい。今大会もそのようなサッカーが見られると私は信じている。ヨアヒム・レーブ監督の下、若さと経験という相反する要素が伴った魅力的なチームに仕上がった。全ポジションに有能な選手をそろえ、選手層も厚い。バラック、クローゼ、シュバインシュタイガー、レーマン、そのほかにも質の高い選手を擁しているだけに、優勝まで一気に駆け上る可能性は十分にある。

 クロアチアは、統率能力に長けたスラベン・ビリッチ監督を有し、選手の素質と若さ、そして何より野心に満ち溢れた非常にいいチームだ。予選最終戦で、イングランドを聖地ウェンブリーで破り、敗退に追いやったことは、チームに大きな自信を植えつけた。唯一のハンディキャップは、予選で10ゴールをたたき出したエドゥアルド・ダ・シルバがけがで欠場すること。しかし、チームには司令塔のモドリッチをはじめ、才能豊かな選手が多く、戦力は充実している。グループ突破はもちろん、決勝トーナメントでも十分期待が持てそうだ。
 ドイツW杯では、日本と0−0で引き分けたクロアチアだが、今大会では全く別のチームに生まれ変わった彼らを見ることになるだろう。

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著者プロフィール

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

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