福留を悩ます?「ヒップアタック」=小グマのつぶやき

阿部太郎

カブスで行われている勝利の儀式

【イラスト:カネシゲタカシ】

“勝利の儀式”というのはスポーツの妙味の一つかもしれない。サッカーファンであれば、ロナウジーニョがゴールを決めたときに親指と小指を立ててくるくると回すシーンを思い浮かべる人もいるだろうし、ゴルフであればタイガー・ウッズがナイスショットを決めたときにみせる「下から上に拳を突き上げるガッツポーズ」を連想する人もいるだろう。“勝利の儀式”には、とかくその選手やチームの個性が出て、それがファンの心をくすぐる。だからファンは彼らのまねをしたりするのだろう。

 しかし、カブス外野陣の“勝利の儀式”は一筋縄ではいかない。なにせ、喜びを表す部位が手や腕ではなく「ヒップ」なのだから。このヒップをどうするかというと、2人の選手がタイミングよくジャンプして、お互いのヒップをぶつけ合う。そう、日本ではプロレスラー越中詩郎さんの必殺技で、お笑い芸人ケンドー・コバヤシさんのネタで有名になった「ヒップアタック」なのである。

仕掛け人はソリアーノ

21日のメッツ戦で4連勝を飾りヒップアタックを見せた福留、この日は2安打の活躍で勝利に貢献 【写真は共同】

 メジャーリーグの世界ではあまり見かけられないこの儀式。仕掛け人はカブスでレフトを守るアルフォンソ・ソリアーノだ。「昨季の後半戦から始めたんだよ」というこの儀式は「勝利を祝いたい、楽しみたいと思って考えた」らしい。だがソリアーノは現在故障中。ソリアーノも早く試合に出たくて、ヒップがうずうずしているだろう。

 本家本元が戦線離脱する中、「ヒップアタック」戦線を引っ張るのは若手のセンター、フェリックス・ピエだ。おそらく外野陣の中で一番美しいフォームを誇っている。彼が代打で今季初本塁打を放ったメッツ戦(現地時間21日)後のヒップアタックは、ヒップの角度といい、突き出し方といい、タイミングといい、申し分ないものだった。おそらく、ホームゲームでは今のところ今季ナンバー1アタックと言っていいだろう。3月に移籍してきたばかりのリード・ジョンソンも奮闘している。もちろん、「(前チームの)トロントではやったことないよ」とはにかんで話したものの、「今後も(ヒップアタックを)やり続けて、ソリアーノが戻ってくるのを待ちたいね」とやる気十分。(大活躍したときの)ピエに比べればまだまだ劣るが、フォームはきれいで、タイミングもなかなかのものだ。

呼吸を合わせるのも技術の一つ!?

 だが、外野陣の中でただひとり、溶け込むのに時間のかかりそうな選手がいる。本職の野球ではすっかり対応した感のある福留孝介だ。今季初勝利となったブルワーズ戦後も、ヒップアタックについて「全然分からんかったっす。よく分からないですね」とボソリ。そして、野球にかけてはほとんどネガティブな姿勢を見せない福留から、今季初めてとも思える弱気なコメントまで飛び出した。

「慣れるまでにあっち(ヒップアタック)の方が時間かかるんじゃないですか」

 福留自身、今までこのような経験は「ない」といい、コントロールしにくいヒップ、しかも相手とのジャンプのタイミングを計らないといけないという点で彼を悩ませている? のだろう。その後もホームゲームでの勝利の儀式をつぶさにチェックして見ていたが、タイミングが外れて相手の選手より早く落下したり、相手の勢いに押されるなど失敗するシーンを目にした。先日(11勝目の際)も「だいぶ慣れたのでは?」と聞いてみたところ、「(タイミングが)合えばいいんですけど、たまにセンターが違うとコロコロ、タイミングが違ってくるんでまだまだでしょうね」との返答。「アジャスト」にはもう少し時間を要しそうだ。

 だが、福留は抜群の運動センスを持ち合わせた男である。“5ツール”(肩力・守備力・走力・巧打力・長打力)の選手である。今は少し照れも手伝ってうまくできていないかもしれないが、きっといつの日か越中さんもびっくりの「ヒップアタック」を披露して、カブスの外野陣を引っ張っていくはずだ。

 カブスファンも今季、ワールドシリーズで福留とソリアーノが「勝利の儀式」をしている姿を目にしたいに違いない。10月になれば、福留もすっかり慣れてこう言うかもしれない。

「やってやるって!」

<毎週木曜日掲載>
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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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