ポルトガル代表の新たな戦い 市之瀬敦の「ポルトガルサッカーの光と影」

市之瀬敦

再スタートは敗戦から

偉大なキャプテン・フィーゴ(右)はW杯で代表から引退。フィーゴ、パウレタの抜けた穴をどう埋めるかが、今後のポルトガル代表の課題だ 【(C)BPI】

 ドイツで開催されたワールドカップ(W杯)で4位入賞。輝かしい成績を残した大会から2カ月が過ぎ、ポルトガル代表が新たなスタートを切った。フィーゴとパウレタが抜けた穴を誰がどう埋め、ユーロ2008(欧州選手権)の予選を戦うのか。大きな期待と多少の不安を持って、ファンは新生ポルトガルのデビューを心待ちにしていたのである。
 9月1日、最初の相手はデンマーク。ユーロの予選ではなく親善試合ではあったが、相手にとって不足はない。というよりも、この20年間はW杯にもユーロにも何度も顔を連ねる強豪である。しかも場所はコペンハーゲン。楽な戦いを期待できるわけがなかった。

 実際、試合開始のホイッスルが吹かれると同時に、ポルトガル代表の出来が良くないことが分かった。守備面が不安定で、とりわけけがで出場できなかったフェルナンド・メイラの代役リカルド・コスタが、去年ベンフィカが獲得し損ねたトマソンのマークに苦労していることは明らかであった。そして13分には早々に失点してしまったのである。
 もちろん、ポルトガルにも救いは見られた。この試合でA代表デビューを飾ったFWナニ(本名ルイス・カルロス・アルメイダ・ダ・クーニャ)が素晴らしい活躍を見せたのである。カボベルデ出身の19歳の若者は、スポルティングのアカデミア(ユース組織)で育ち、クアレスマやクリスティアーノ・ロナルドの系譜を継ぐドリブラーである。デコも言うように、見る者をワクワクさせる選手だ。

 そのナニが絡んでポルトガルは2点を返したのだが、やはりディフェンスが悪過ぎた。引き分けでゲームを終えることもできるのではないかと思われた直後に得点を許し、終わってみれば2−4の敗戦。W杯後の最初のテストは芳しくない結果で終わったのである。
 なお、デンマーク戦での敗戦により、ポルトガル代表はW杯の準決勝、3位決定戦に続き、3連敗となった。ポルトガルはこれまで3度、3連敗を喫したことがある。いずれも1980年代のことで、最後の3連敗は、20年ぶりのW杯出場につながった1986年メキシコ大会の予選中のことだから、警鐘を鳴らす必要はないのかもしれない。とはいえ、ポルトガル代表を率いてからは好成績を積み重ねてきたスコラーリ監督としては、あまりうれしくないタイ記録の達成であろう。

引き分けでよし

 9月6日、ユーロ2008の予選突破を目指す真剣勝負がいよいよ始まった。グループAに入ったポルトガルは、フィンランド、セルビア、ベルギー、カザフスタン、アゼルバイジャン、ポーランド、アルメニアと来年11月21日まで1年以上をかけて予選を戦うことになる。最初と最後の対戦相手がフィンランドというのが面白い。

 さて、そのフィンランド戦。フィンランドはすでにポーランドを敵地で下しており、チームのコンディションがよいことを示していた。一方、デンマークに敗れたポルトガルは、スコラーリ監督や選手の間から「引き分けでも悪くない結果」という言葉が漏れるくらい、弱気になっていた。スコラーリ監督は、「自分がポルトガルにやってきてから、最も選手たちの状態が悪い」とさえ発言していたのである。
 とはいえ、選手たちを勇気づけるデータもあった。1つは、ポルトガルは過去40年間、ユーロ予選の初戦で敗北を喫したことがないという事実。1968年のユーロ予選の初戦で、1966年にスウェーデンに敗れたのが最後なのである。
 さらに、ポルトガルはユーロ予選の初戦でこれまで2度フィンランドと対戦し、1勝1分け。つまり、負けたことがないのである。主力選手がまだW杯での疲労を引きずる今回の試合では、心理的にはこうしたジンクスに頼りたいところもあった。

 試合は予想されたとおりの展開で始まった。デンマーク戦でも見られたが、ポルトガルの守備陣は相手の長身の選手たちが仕掛ける空中戦に大いに苦労させられた。そして、22分、ヨハンソンにヘディングシュートを決められてしまったのである。
 しかし、失点で目が覚めたのか、ポルトガルもクリスティアーノ・ロナルドとナニを中心によく反撃した。42分にはナニからデコ、そしてヌノ・ゴメスへとパスがつながり、同点に追いついたのである。

 残念ながら、後半開始早々にリカルド・コスタが退場処分となり、これでポルトガルが勝利する可能性は実質的にはついえてしまった。フィンランドはなおも“空爆”を試みたが、さすがにポルトガルの守備陣もそのころには対応ができており、得点を許さなかった。
 引き分けでよしと考えていたスコラーリ監督のプランに即した結果。欲を言えばきりはないが、ポルトガル代表は1998年からW杯とユーロのヨーロッパ予選を32試合戦い、1度しか負けていないのである。これはかなり立派な成績ではないか。
 なにはともあれ、好調のフィンランドを相手に敵地で勝ち点1を得たのである。予選突破に向けて明るい展望が開かれたと言えるだろう。懸念されるのはチームの成熟度の欠如。しかし、次々と生まれる若いタレントがそれを補ってくれるに違いない。

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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