親子2代でやられたポルトガル 市之瀬敦の「ポルトガルサッカーの光と影」
忘れ難き20年前の悪夢
C・ロナウドの大活躍でアゼルバイジャンに勝利したポルトガルだったが、次のポーランド戦で敗れ、ユーロとW杯予選では、1998年10月10日以来の敗北を喫した 【Photo:AFLO】
1966年イングランド大会以来、20年ぶりにワールドカップ(W杯)出場を果たしたポルトガル。1986年夏、メキシコの地で行われたW杯で、ポルトガルは第1戦でガリー・リネカーのイングランドを1−0で破り、20年前の大会の準決勝で味わった悔しさ(1−2でイングランドに敗戦)を晴らし、士気は上がっていた。
イングランド戦後の練習中に正GKマヌエル・ベントが足を負傷し、残りの試合に出場できなくなるというアクシデントはあったが、第2戦のポーランド戦に向けて悲観的になる必要もなかった。第3戦の相手はモロッコで、十分に勝利は計算できた。ポーランドに引き分ければ、2勝1分けの勝ち点5でグループトップでの予選リーグ通過も予想できたのである。
しかし、1人の選手のたった1つのゴールがポルトガル人の夢を壊してしまった。その選手の名前はスモラレク。1982年スペイン大会でポーランドを3位に導いた名選手であった。そのスモラレクのゴールでポルトガルは0−1で敗戦。チームは勢いを失い、結局モロッコにも敗れ、メキシコの地を早々に後にしたのであった。
運命の悪戯がもたらした2度目の敗北
8月に始まったユーロ2008(欧州選手権)予選。A組に入ったポルトガルは、第1戦をアウエーでフィンランドと戦って1−1で引き分け、勝ち点1を得ていた。スコラーリ監督によれば、ポルトガル代表選手たちのフィジカル・コンディションはかなり悪く、勝利はとても望めるような状況ではなかったという。
しかし、ヨーロッパ各国におけるリーグ戦も佳境に入り、選手たちのコンディションもだいぶ良くなってきた。10月7日と11日に行われた2試合では、「格下」のアゼルバイジャンと当面のライバルとなりそうなポーランドを相手に、勝ち点4を獲得することが至上命令とされていた。もちろん、ホームでアゼルバイジャンに勝利し、アウエーでポーランドと引き分けるという計算である。
ボアビスタFCのホームであるベッサ・スタジアムで行われたアゼルバイジャン戦では、クリスティアーノ・ロナルドやデコの活躍もあり、3−0でポルトガルが順当に勝利を収めた。デコのパスを受けてクリスティアーノ・ロナルドが決めたオーバーヘッドキックは本当に格好よくて、審判に取り消されてしまったのは極めて残念であった。これが認められていれば、ポルトガルサッカー史で長く語り継がれるようなゴールになったことだろう。
なお、相手が有名選手のいないアゼルバイジャンということもあり、この試合のスタンドには空席が目立ったが、サッカーの人気が上がれば上がるほど、スタンドに空席が増えるという、現代ポルトガルサッカーの逆説を見せつけられるような気もした。
最初のノルマを達成したポルトガル代表は、直後にポーランドに乗り込んだ。ポーランドでは引き分けで十分とするスコラーリ監督の発言に対し、メディアやサポーターからは弱気過ぎではないかという批判も聞かれたが、指揮官は選手たちには別の趣旨のメッセージを伝えているのだと反論していた。
しかし試合が始まると、引き分けすら高望みであるように感じた。守備も攻撃も組織立った動きが見られず、立ち上がりの9分と18分、あっという間に同じ選手に2点を入れられてしまった。しかも、その選手の名前はスモラレク。20年前に辛酸をなめさせられた選手の息子であった。
さらに、興味深いのは、現ポーランド代表のスモラレクの名前はエウゼビウス。ポルトガル語に訳せばエウゼビオ! そう、父ブウォジミエシ・スモラレクは尊敬する選手だったエウゼビオの名前を息子につけたのであった。そのポーランドのエウゼビウス1人にしてやられた試合で、ポルトガルの得点は終了間際にヌーノ・ゴメスが挙げたゴールのみ。ポルトガルは1998年10月10日にユーロ2000予選でルーマニアに0−1で敗れて以来、ユーロとW杯予選を通じて、8年ぶりに敗北を喫したのである。
ここまで3試合を終えて、ポルトガルは1勝1敗1分けで勝ち点4。上位を行く4カ国セルビア、フィンランド、ベルギー、ポーランドより1試合少ないとはいえ、驚くことにA組の5位である。もし次の試合に勝ったとしても、2位のフィンランドに追いつくことはできない。ユーロ予選もまだ先は長いけれど、ポルトガル代表はちょっとだけ黄色信号がともっているといったところだろうか。
スモラレク親子に喫した2度の敗北を受けて、「タル・パイ、タル・フィーリョ(Tal pai, tal filho)」(この親にして、この子あり)などと、どの国にもありそうな諺(ことわざ)をのんきに口にしている場合ではなさそうである。