落日の赤い悪魔 中田徹の「オランダ通信」

中田徹

実力不足の現状

ホームでポーランドに完敗したベルギーは、ファン・ビュイテン(写真)ら中堅選手中心で構成されているにもかかわらず、結果が出ていない 【Photo:AFLO】

 11月15日、僕が住むオランダではイングランド戦があった。しかし、しょせんは親善試合。そこにドラマはない。だから、僕はユーロ(欧州選手権)予選の試合があった隣国ベルギーへと出掛けてきた。

 やはり現場には来るものだ。目の前ではベルギーがポーランドを相手に悲惨な試合をしていた。ベルギーの現状が手に取るように分かる、そんな試合だった。
 前半19分、ポーランドはロングボールを自陣から蹴った。ベルギーのセンターバック、ファン・ビュイテンは余裕を持ってボールを処理しようとしたが、そこに油断があった。簡単にボールを奪われてしまい、マツシアクにゴールを許してしまった。その後、ベルギーはチャンスらしいチャンスを作ることすらできず、ホームのブリュッセルでぶざまな敗戦を喫した。3万人のサポーターは容赦ない大ブーイングをベルギー代表に浴びせた。1万人を超すポーランドサポーターはもちろん大喜びだ。

 予兆はあった。8月16日、ベルギーはカザフスタンとホームで対戦。格下相手にもかかわらずベルギーは守備的な布陣で戦った。コンパニーが中盤でゲームメークをしたが、本来彼はDFの選手である。しかも前半38分にコンパニーが負傷退場するとベルギーは全く意図する攻撃ができなくなってしまった。そのまま試合は0−0で終了。ベルギーにとっては先が思いやられる内容と結果だった。

 ポーランド戦に話を戻すと、19分までお互いシュートはゼロだった。気持ちと気持ちがぶつかり合った、緊張感溢れる雰囲気だった。しかし、ポーランドの最初のシュートがゴールになり、そこで試合のバランスが崩れた。
 ベルギーは前に行こうと気持ちがはやるが、DFからのロングボールが不正確で、2トップのファン・デンベルフとエミール・ムペンザにボールが届かない。ショートパスでつなごうとしても、DFからMF、MFからFWへのパスも不正確でボールを前に運べない。
 ヨーロッパの国際試合では多少の実力差があっても点を取られたチームは反撃し、相手を押し込むものだ。しかし、ベルギーは全く押し込む時間帯を作れず、ボールを失い続けて守勢に回った。これをベルギーのメディアは「ピンポンのようにボールを失うベルギー」と称した。
 ベルギーが90分間を通じて放ったシュートはわずか3本。試合終了間近になるとファン・ビュイテンとピローニを最前線に置いてロングキックを多用し、相手ペナルティーエリア内に殺到したが、それでもチャンスは作れなかった。ここまで来るとはっきり言って実力不足だろう。

後に何も残らない試合

 ポーランドはいい試合をした。ベルギーに対して常に数的優位を作り、攻守に渡ってポーランドが上回った。1トップと1シャドーにボールが収まり、左ウイングのスモラレクがこの2人の裏へ走り込んではチャンスを作っていた。伝統ともいえる速攻がよく決まっていたが、速攻ができないときも後ろへボールを戻し、落ち着いて攻撃を組み立て直していた。
 ポーランドはベルギー同様、予選開始時は危機的状況で、ホームでフィンランドに1−3と完敗していた。国内のサッカー環境は悪く、指揮を執るオランダ人のベーンハッカー監督は「ポーランドは20年前に取り残されている」と語ったほどだった。しかし、その後はポルトガルに勝つなど調子が出てきた。ベルギー戦はレギュラーとベンチを合わせて10人をけがで欠いたが、それでも会心の勝利だった。
 A組は今回のベルギーだけでなく、セルビア、ポルトガル、さらに現在首位のフィンランドもいて厳しい組だ。勝負事だからポーランドが上位2つには入れない可能性もある。それでもベーンハッカー監督は、ポーランドに何かが残るチーム作りをしていると思う。

 一方のベルギーは、後に何も残らない試合をしている。手元にあるベルギーの新聞は痛烈だ。ポーランド戦の採点はシモンズには10点満点で7がついたが、ほかは6が2人(GKスタインス、DFフーフケンス)、5が3人(DFフェルマーレン、MFホール、途中出場のハイセヘムス)、4が2人(DFレオナール、MFへラールス)、3が4人(DFファン・ビュイテン、ファンデン・ボレ、FWファンデンベルフ、エミール・ムペンザ)とやけくそ気味だ。

 試合を見ながら痛切に感じたのはベルギーのクリエーティビティー不足。前日ベルギーユース代表でプレーしたマルテンス(AZ)のような、違いを作り出せる選手が必要だった。
 選手構成を見ても危機的な状況だ。若手のフェルマーレン(アヤックス)、ファンデン・ボレ(アンデルレヒト)、ベテランのホール(アンデルレヒト)を除けば、脂の乗り切った中堅選手ばかり。つまり、今のベルギーは将来のためのチームではなく、すぐ結果を出すべきチームなのだ。
 主将のシモンズは、「数字的にはまだチャンスは残っているけれど、本当に本大会出場は難しくなった」と語り、ベルギーのメディアは早くも「2010年のワールドカップ(W杯)を目指すしかなくなった」と悲観している。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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