「静かなる革命」は成功するか? 市之瀬敦のポルトガルサッカーの光と影

市之瀬敦

3年ぶりのカザフスタン戦

カザフスタンを3−0と一蹴したポルトガル。3年前の対戦でもゴールを決めたシマゥンが2得点を挙げた 【Photo:AFLO】

 カザフスタン。ポルトガル語で「カザキスタゥン」。ポルトガル人の大半は、その正確な位置を知らないだろう。
 サッカーでもなじみのある国ではない。今から3年前、2003年8月20日にポルトガル代表とカザフスタン代表が試合をしたことを覚えているのは、ゲームの舞台となった北部の町シャーベスの住民くらいかもしれない。

 スコラーリにとっては、ポルトガル代表監督に就任して6試合目。シマゥン・サブローサがゴールを決め、1−0で相手を下したその試合。特別な意味を探そうとすれば、何といっても、いまやポルトガル代表のエースともいえるクリスティアーノ・ロナウドが代表デビューを果たしたことに尽きるだろう。まだ18歳だったロナウドは、後半開始からルイ・コスタに代わって投入されたのだった。
 それから積み重ねた代表歴が43試合。まだ21歳だというのに、そのキャップ数はすでにベテラン選手のようでもある(ちなみにデコも同数だ)。そして今月15日の夜に行われたカザフスタン戦でも、クリスティアーノ・ロナウドは輝いてみせた。

 場所はコインブラ市営スタジアム。こちらも今から3年前の9月27日に歴史を刻み始め、スタンドは超満員で膨れ上がった。もっともそれは、サッカーではなくローリングストーンズのコンサートだったのだが。

クリスティアーノ・ロナウドの輝き

 先月行われたユーロ2008(欧州選手権)予選、ポルトガルはアゼルバイジャン、ポーランドと対戦し、戦績は1勝1敗だった。最悪でも1勝1分で乗り切るつもりだったにもかかわらず、勝ち点3しか挙げられなかったポルトガル。そんな彼らにとり、カザフスタン戦は確実に勝たなければならないゲームであった。そう、求められたのは勝利だけ。スコラーリ監督が述べたように「もし勝てなかったら、われわれはひどい状況になる」。とはいえカザフスタンは、堅い守備とカウンター攻撃を得意とする侮れないチーム。不調とはいえ、あのベルギーと0−0で引き分けているのだ。

 幸いなことに、ポルトガルの先制点は早々に決まった。開始9分、相手GKの助けもあり、シマゥンが豪快にネットを揺らす。3年前も決勝点を挙げたシマゥン。試合終了間際にはダメ押しの3点目を挙げており、カザフスタンと相性がいいのかもしれない。
 しかし、この試合の主役はやはり、クリスティアーノ・ロナウドだろう。もちろん、29分にドリブル突破の後にペナルティーエリア外から決めたシュートは素晴らしかった。だがそれ以外にも、さまざまなフェイントを披露して観衆を沸かせ、シュートを放ち、時には守りでも貢献した。ロナウドのプレーを見ることができただけでも、この日スタジアムに足を運んだ人々はチケット代に納得したはずである。

 代表でのロナウドの得点は、このカザフスタン戦で15ゴールとなり、70年代から80年代にかけて活躍したアンゴラ出身の名ストライカー、ジョルダンに並んだ。歴代代表の中ではすでに8番目に位置している。年齢を考えれば、これもまた偉業である。

スコラーリとケイロスの舌戦

 ところでこの試合では、監督同士のちょっとした「場外乱闘」があった。といっても、殴り合ったわけではなく舌戦である。試合前、スコラーリ監督に対し、マンチェスター・ユナイテッドのファーガソン監督やケイロス・コーチから、10月のポーランド戦でけがをして、まだ完治していないクリスティアーノ・ロナウドを起用しないよう圧力がかかったのである。だが、スコラーリ監督はロナウドを先発させ、結果は前述の通りである。

 試合後、スタジアムに視察にきていたケイロス・コーチを意識してだろうか、スコラーリは「ケイロスは代表監督候補になるために働いている」と非難。これにはケイロスも黙っていられず「スコラーリはガソリンを満たした車を貸すと、その週の間乗り回し、どこかの道路にガソリンを空にして放置し、しかもどこに乗り捨てたのか、電話もしない人間のように振る舞う」とやり返したのである。

 私は、サッカーにかかわる言葉のやり取りが嫌いではないけれど、ポルトガル代表の現監督と元監督の争いというものは、見ていて気持ちのよいものではない。スコラーリはこれまでもモリーニョらと敵対し、衝突から生じるエネルギーを選手たちに伝え、勝利をもぎ取ってきたとも言える。しかし、その手法には副作用も生じ得るのだ。あまりナーバスにならず、ケイロスとのもめ事も早めに解決してほしいものである。

 いずれにせよユーロ2008出場に向け、ポルトガルにはまだ予選10試合が残されている。つまり、現時点で4位とはいえ、順位をひっくり返すチャンスはいくらでもあるのだ。冷静に選手個々の能力を見れば、ポルトガルがグループ・ナンバーワンであることは誰も否定しないだろう。今回の勝利で誰もが一安心。予選が再開される来年3月も、楽観的な気分で迎えられそうである。

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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