王国に歴史的2連勝 充実のポルトガル代表 市之瀬敦のポルトガルサッカーの光と影

市之瀬敦

スコラーリ監督はブラジルキラー?

ポルトガルがまたしてもブラジルに勝利。シマゥン(右上)のゴールなどで2−0と王国を粉砕した 【(C)Mutsu KAWAMORI】

 2月6日の夜に世界が注目する対決が実現した。ポルトガル対ブラジルである。多くの人は逆にして表記したいだろうが、このコラムではポルトガル優先である。場所はロンドンの名門アーセナルの新本拠地エミレーツ・スタジアム。スタンドは6万人の観客で溢れ返っていた。
 両国の対決は今回が17度目。今回の2−0でのポルトガルの勝利で、対戦成績はポルトガルの4勝2分11敗となった。通算成績だけを見れば圧倒的に“王国”ブラジルに分がある。しかし、実はポルトガルが最後にブラジルに敗れたのは1989年のことで(0−4で完敗)、今回の勝利で“カナリア軍団”に対する18年間の不敗記録をさらに更新することになったのである。

 ポルトガルとブラジルという“兄弟国”同士の間で行われた最近の対戦だと、2002年4月と2003年3月の試合が思い出される。前者は1−1の引き分け、後者は2−1でポルトガルの勝利であった。ポルトで行われた2003年のゲームで、ポルトガル国籍を取得したばかりのデコ(当時はFCポルトの選手だった)が代表デビュー戦でいきなりFKによる決勝点を挙げたシーンを記憶している方も少なくないだろう。
 興味深いのは、その3試合すべてで、スコラーリ監督がどちらかの国のベンチで指揮を執っていることである。2002年の試合ではまだブラジル代表監督だったスコラーリ監督だが、2003年にはすでにポルトガル代表監督としての2試合目を迎え、初勝利を挙げた。
 そして今回、4年ぶりのポルトガル対ブラジル戦で、スコラーリ監督はまたしてもブラジルを破ってみせたのである。これでポルトガルとスコラーリ監督は、ブラジルに対し2連勝! これはなかなかできることではない。ブラジルを下すには、ブラジルサッカーを熟知するスコラーリ監督が一番ということかもしれない。

イングランドは験がいい

 さて、6日の試合はロンドン、すなわちイングランドを舞台に行われたのだが、両国はかつて、やはりイングランドで戦ったことがある。厳密には、場所はリバプールであった。“かつて”といってもすでに41年も前のことだ。かなり古い話になるが、1966年のワールドカップ(W杯)・イングランド大会で、ポルトガル対ブラジルというカードがグループリーグの第3戦で見られたのである。
 その試合は、ペレ対エウゼビオの対決でもあったが、ペレはポルトガル守備陣の徹底マークに遭い、本領を発揮することはできず、逆にエウゼビオは2得点を挙げ、ブラジルのW杯3連覇の夢を打ち砕いたのだった。3−1という結果に終わった試合は、ブラジルにヨーロッパサッカーのハードさを教えたものだったともいえるだろう。
 あの試合から40年以上の時間が流れ、ブラジルは“王国”としての地位をさらに固め、ポルトガルもサッカー強国の1つに数えられるようになった。ブラジル人選手がポルトガルサッカーを見下すようなこともなくなった。やはり時代は変わったのだ。

 6日の試合に戻ると、ブラジルにはロナウジーニョもロビーニョもいなかったが、前半は完全にブラジルペースであった。ポルトガルのGKリカルドはバーに助けられたりもした。
 カウンターアタック中心となったポルトガル攻撃陣では、クリスティアーノ・ロナウドが得意のフェイントで相手DFに尻もちをつかせたりもしたが、フィニッシュまでは至らなかった。この辺りがポルトガル人らしいとも言えそうだし、スコラーリ監督がクリスティアーノ・ロナウドはまだ世界のトップ5には入らないと口にする理由なのかもしれない。
 しかし、後半になると流れが変わり、ポルトガルが攻勢に転じた。そして、選手交代の効果がより大きかったのはポルトガルだった。確かに、残りおよそ10分間の2得点で決定的な仕事をしたのは、初先発そしてフル出場を果たしたクアレズマであった。スコラーリ監督が望んだ“代表でプレーするFCポルトのクアレズマ”を目にすることができたのだ。
 とはいえ、先制点を決めたのは62分にピッチに入ったシマゥン・サブローサだったし、リカルド・カルバーリョの2点目をアシストしたのは、デコに代わったウーゴ・ビアナであった。

 この勝利で、ポルトガルはイングランドで行われたブラジル戦でも2連勝。ポルトガルにとり、イングランドは験が良い土地なのかもしれない。

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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