崖っぷちで残ったイタリア ホンマヨシカの「セリエA・未来派宣言」

ホンマヨシカ

ドナドーニを過敏にさせた次期監督のうわさ

次期監督のうわさ、そしてトッティの代表辞退により、試合前のドナドーニ監督は非常にナーバスな状態だった 【 (C)Getty Images/AFLO】

 ユーロ2008(欧州選手権)の予選で苦戦を続けていたイタリアだが、3月28日に南イタリアの都市バーリで行われたホームでのスコットランド戦で、やっと本来の力を発揮して2−0の勝利を飾った。昔からイタリアは格下相手に苦戦を強いられることが“お家芸”になり、ワールドカップ(W杯)に限らずどのような大会でも、予選で苦戦を強いられることが多い。それに今度のユーロ予選は、W杯優勝後の虚脱感と疲労の蓄積などの、いわゆる「W杯シンドローム」のほかに、多くの代表選手の所属クラブが打撃を受けた“カルチョスキャンダル”の後遺症も加わるという悪条件が重なり過ぎた。

 スコットランド戦直前の予選B組の状況を説明すると、フランス、ウクライナ、スコットランドの3カ国が5試合を消化して4勝1敗の12ポイントで並び、イタリアが4試合を消化して2勝1敗1分けの7ポイントで続き、その後ろにグルジアが6ポイント(6試合)、リトアニア4ポイント(5試合)、フェロー諸島0ポイント(6試合)となっていた。
 もしイタリアがスコットランド戦で勝利を得られないなら、上位を行く3カ国にポイントを大きく離されることになり、まだ残り7試合あるといっても本大会出場枠の上位2チームに入るのが非常に困難になるところだった。
 イタリア代表のドナドーニ監督が非常に大きなプレッシャーを感じていたことは、試合前のいら立ったインタビューの受け答えを見ても明らかだった。ただし、ドナドーニの試合前のいら立ちの原因はほかにもある。一つはマスコミが流す次期代表監督のうわさだ。
 元々ドナドーニの代表監督就任が発表された時から、マスコミだけではなく多くのサッカーファンも次の適任者が見つかるまでの一時しのぎととらえていた。これまでイタリアの代表監督を務めてきたのは、クラブで結果を残している監督(リッピ、トラパットーニ、ゾフ、サッキ、ファブリ、ベルナルディーニ)、U−21代表監督を永年務めた監督(ビチーニ、マルディーニ)、長く代表チームの助監督を務めていた監督(ビエルゾ)など、経験豊富な人物が就任してきた。ゆえにイタリアではほかの国のように監督経験のほとんどない元選手(それが大選手であったとしても)が代表監督に就任することは考えられない。ドナドーニはセリエAでの監督経験(リボルノ)はあるが、W杯ドイツ大会の直前に終了した2005−06シーズンの途中(第23節)でリボルノの監督を解任されていた。
 監督としてまだ未知数のドナドーニがW杯に優勝したリッピの後任として就任したのだから、常に良い結果を出していない限り、マスコミが後任監督のうわさを書き立てようとすきをうかがっているのも当然だろう。

 今回のうわさはミランがからんでのものだった。ミランの来シーズンの監督にリッピが就任し、アンチェロッティがイタリア代表監督に就任するというのだ。アンチェロッティもラジオのインタビューで「イタリア代表監督になるのが夢」と語ったためにうわさが大きくなった。ただし「2011年に」とアンチェロッティが言った言葉が取り残され、マスコミは6月から就任する可能性があるような取り上げ方をした。
 ドナドーニは合宿中のインタビューで「私の夢はレアル・マドリーの監督になることだ。誰にも夢がある。アンチェロッティは代表監督になりたいという夢を持っている。しかし彼は2011年にと話していた。それなのに君たちはなぜ、すぐに『時期監督に』と書き立てるのか。ジャーナリストとして公正な仕事をしている人間はわずかしかいない」とかみついた。
 恐らくドナドーニは内心、「こんな時にカルロ(アンチェロッティ)は、どうしてあんなことを言ったのだ」と友人のアンチェロッティの発言に舌打ちしていただろう。

波紋を呼ぶトッティの代表辞退

 もう一つドナドーニをいら立たせたのは、トッティのイタリア代表拒否だ。トッティは「今年の9月から代表に復帰する用意がある」とサッカー協会を通じてコメントを発表した。今はまだコンディションが完全ではないというのが辞退する理由だ。
 しかし、トッティは今シーズン得点王レースのトップ(18ゴール)を走り、ローマをチャンピオンズリーグ準々決勝に進出させる働きをしている。確かにスコットランド戦の3日後にホームでのミラン戦があり、さらにその4日後にはホームでチャンピオンズリーグ準々決勝マンチェスター・ユナイテッド戦の第1戦を控えている。もしスコットランド戦に出場した場合は1週間で3試合をこなすことになり、まだ左足首にボルトを埋め込んでいるトッティにとっては非常に過酷なスケジュールだ。
 しかし、イタリアのユーロ出場がスコットランド戦の結果に大きく左右されるという状況を考えると、普段からイタリア代表よりもローマを優先すると言ってはばからないトッティの代表辞退は、随分身勝手な選択だという印象を与えている。

 ドナドーニもこの件に対して表向きは冷静さを保っているが、質問を向けられると「9月になって彼がやる気を見せた時、コンディションを見た上で招集するかどうかを判断する」と、トッティが好きな時に勝手に復帰できるのではないことを言葉の端々に匂わせた。
 この件についてもそうだが、以前のコラム(新たなスキャンダルとドナドー二の試練)でも取り上げたように、僕にはドナドーニがW杯優勝を果たした選手たちから少しあなどられているように思えてしょうがない。

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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