ユーロへ、軌道修正なる 市之瀬敦の「ポルトガルサッカーの光と影」

市之瀬敦

「悲劇」の影もなく

ベルギー戦で1ゴールを挙げたポルトガル期待の若手FWナニー。来季からはマンチェスター・Uでプレーする 【Photo:AFLO】

 6月2日、ベルギーの首都ブリュッセルにあるスタッド・ロワ・ボードゥワンで、ベルギー対ポルトガルの試合が行われた。両国にとり、「ユーロ(欧州選手権)2008」予選の第7戦である。つまり、各国が14試合を戦う予選グループAにおいては、折り返し地点だ。
 スタッド・ロワ・ボードゥワンのかつての名称は、ヘイゼル・スタジアム。そう言えば、22年前の「ヘイゼルの悲劇」を思い出される方も少なくないだろう。UEFAチャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)の決勝戦、リバプールとユベントスのサポーターが試合前にスタンドで衝突、39名の死者を出してしまった。それはサッカー史上でも最悪の悲劇の1つである。

 そんな歴史があるからといって、割り当てられた1万2000枚のチケットを売り切れにしたポルトガル代表応援団が乱闘騒ぎを起こすとは、私はみじんも心配しなかった。ベルギーには数多くのポルトガル移民が暮らすが、3月末にリスボンで行われた同予選第5戦のポルトガル対ベルギー戦を前にしてベルギー人GKが行った挑発的な発言(※クリスティアーノ・ロナルドを負傷させるといった内容の脅し)を、彼らがいつまでも根に持つはずもなかった。
 それでも、ベルギー応援席側のチケットを購入したポルトガル応援者は、ポルトガルを象徴するフラッグやマフラーの持ち込みは禁じられたという。もちろんそれはベルギーサッカー協会の嫌がらせでもなんでもなく、そのような法律が同国にあるそうだ。過去の教訓が生かされているということなのだろう。試合はピッチ外のトラブルもなく終了した。

ベルギーから貴重な勝ち点「6」

 試合の結果は2−1でポルトガル代表の勝利。いまやチームの柱となったクリスティアーノ・ロナルドが累積警告で、またヌノ・ゴメスやリカルド・カルバーリョといった経験豊富な選手も故障で欠場し、心配がなかったわけではない。しかし、エルデル・ポスティーガとナニーという2人の若手FWが1ゴールずつをマーク、ユーロ予選突破へ向けてポルトガル代表を再び軌道に乗せてくれたのである。

 特に先制点を決めたナニーの活躍は素晴らしかった。ベルギー戦の1週間前には、所属していたスポルティング・リスボンでポルトガル杯を制覇。その直後に同クラブの先輩クリスティアーノ・ロナルドと同じマンチェスター・ユナイテッドへの移籍が決まった。そしてベルギー戦では、ペナルティーエリアの左サイドを突破した後の右足からの弾丸シュートを世界に見せつけたのである(しかもひねりも加えた宙返りも)。
 ナニーは旧ポルトガル領、現在はカボ・ベルデ共和国の出身。多くのカボ・ベルデ人がするように、家族とともにポルトガルへと移住。その後、スポルティングのアカデミーでサッカー選手として育った20歳の若者は、ついに世界的な選手への第一歩を踏み出したようである。
 また、決勝点となったポスティーガのシュートも別世界のもののように思えた。果たしてこの2人は、ポルトガル代表の慢性病=決定力不足を解消してくれるだろうか。

 さて、今回のユーロ予選が始まる前にスコラーリ監督が立てた計画は、ホームで勝利、アウエーで引き分けるというものであった。つまり、計14試合で勝ち点28を挙げることが目標であった。
 昨年ポーランドでの試合に敗れ、計算に狂いが生じていたのだが、予選7試合目に当たる今回のアウエーでのベルギー戦における勝利で勝ち点がちょうど目標の半分の14点となった。ベルギーを相手に、2試合で勝ち点「6」をゲットできたことはポルトガルにとり大きな意味を持つのだ。スコラーリ監督の期待に応え、そして同監督の計算どおりの起動に修正した2人の若手選手には心から感謝したい気持ちである。
 しかも6日には、グループ首位を行くポーランドが、ありがたいことにアルメニアに敗れてくれた。これでもし消化ゲームが2試合少ないポルトガルが、その両方に勝利すれば、ポーランドを抜いて自力で首位に立てることになった。ポルトガルにとって非常に好ましい6月の予選試合であった。

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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