ミラノでのドロー、そしてパリでの敗北 フランス代表、3位へ転落

横尾愛

試合前から火花散る因縁の対決

サンシーロのスタンド正面に燦然と輝く“4つ星”が 【Photo by Kana Yokoo】

 赤と黒の紙飛行機がちらほらと飛び交うミラノ、サンシーロ・スタジアムのピッチに、イタリア代表の選手たちがアップのために登場したとたん、観客席のボルテージはいっそう上がった。「本当にすごいスタジアムだな、スタッド・ドゥ・フランスではこうはいかないよ」と、フランス人記者はしきりと感心している。サポーターの声援が上に抜けていくスタッド・ドゥ・フランスと違って、サンシーロはそれを逃がさず、繰り返し反響させるのだ。

 ユーロ(欧州選手権)2008予選、イタリア対フランス戦のキックオフまで、まだたっぷり1時間。いや、もうあと1時間と言うべきなのだろうか。バックスタンドには既に、ワールドカップ(W杯)優勝回数を表す4つの星が燦然(さんぜん)と浮かび上がっている。

「1999年のシドニー五輪予選でイタリアと対戦した時、審判が買収されていた」
 8月9日付の『ル・パリジャン』紙が伝えたフランス代表、レイモン・ドメネク監督の言葉が、ただでさえデリケートなイタリア戦にさらなる火花を添えた。UEFA(欧州サッカー連盟)もすぐさま動き、「根拠もなく不適切な発言をした」として、ドメネク監督にはイタリア戦でのベンチ入り禁止処分と、1万スイスフラン(約96万円)の罰金が下された。後日行われた事情聴取で、罰金は取り下げられたが、ベンチ入り禁止は覆らず。かくしてフランスは、指揮官抜きで戦うことになったのである。

 昨年のW杯決勝でジダンを挑発したマテラッツィはけがで不在(「I LOVE(ハートマーク) PARIS」と書かれたTシャツを着てスタンドにいた)、今回イタリアを挑発しようとしたドメネク監督もベンチにはいない。それでもイタリアのサポーターたちは、全く“やる気”をなくしていなかった。ドメネク監督の代わりにベンチ入りしたアシスタント・コーチのマンコウスキには、身代わりとばかりに最大限のブーイング。さらに、フランスの国歌に敬意を払わない自国サポーターの恥ずべき振る舞いには、ブッフォンを始めとするイタリア代表の選手たち、さらにはイタリアのスポーツ省大臣も遺憾の意を表明したが、マルーダはこう言っていた。「あのブーイングで、僕らはいい刺激を受けた」

アウエーで貴重な勝ち点1

 誰がどの位置でイタリアの中盤を抑えるか、それがフランスにとって一番の問題だった。デ・ロッシ、ガットゥーゾ、ピルロの3人で構成されたイタリアの中盤は、ビエイラとマケレレだけでは対応し切れない。特に深い位置にいるピルロからは、危険なパスが前線のインザーギ、左のデルピエロ、右のカモラネージへと繰り出される。しかもピルロは、相手陣内へ押し込んでしまえば片付くたぐいの選手ではない。逆に深い位置にいればいるほど、精度の高いパスが出てくるという厄介な相手だ。
 13分、ピルロから左のデルピエロに縦パスが通り、イタリアがCKを得る。このチャンスに、ファーサイドでカンナバーロが滑り込むが、GKランドローのブロックもあってボールは右にそれる。フランスは一瞬、冷や汗をかいた。

 それでもフランスは徐々に修正を重ねて、試合を0−0で折り返す。よく滑っていたアネルカがハーフタイムにスパイクを変え、守備に下がってピルロの“面倒を見る”意識を高めること。そして、ビエイラとマケレレの手に余った3人目の中盤を見るべくマルーダが下がることで、試合は大きくスコアレスドローへと向かって動き始めた。
 こうなると、いら立ちが募るのはイタリアである。元気に応援していたサポーターたちも次第にうめき声が多くなり、代わりにスタジアムには、数少ないフランス・サポーターたちから「ジズー! ジズー!」と引退したジダンへのコールが響く。82分、見せ場を作れずにディ・ナターレと交代したデルピエロには、イタリアのサポーターから轟くようなブーイング。後半最後のチャンスになると思われたクロスを失敗したオッドのプレーには、皆が一斉に「オウ!」と怒りを込めてため息。8万人近い人たちで一斉にこれをやられると、正直言って単なるブーイングよりもずっと怖い。90分が過ぎ、陽気だったサンシーロが不機嫌な怪物に姿を変えるころ、フランスは勝ち点1を手にしていた。

課題として残ったフランスの攻撃

ミラノの試合では、右サイドで孤軍奮闘となったリベリー 【Photo:PanoramiC/AFLO】

 守備面では、確かにフランスは素晴らしい試合運びを見せた。大方の予想を裏切り、右サイドバックで先発したアーセナルの若きDFラサナ・ディアラも、物おじしない活躍でサポーターを喜ばせた。だが攻撃面となるとどうだろう。相手はイタリア、しかもアウエーなら、0−0の引き分けというのが決して悪くない結果であるのは明白だ。だが、左サイドのマルーダのいつもの脅威はなりを潜め、右のリベリーのドリブル突破だけがわずかなアタックの意志表示というのは、やはり不安が残るところである。
 確かにフランスはパスを回していた。だがラストパス、もしくはその起点となるパスの出しどころを見いだせていなかったのだ。ミラノで失点しないために、FWも含めた全員が守備に奔走せざるを得なかったのであれば、フランスは単にイタリアと刺し違えたと言っても過言ではない。
 なお攻撃面で仕事ができなかったマルーダを、フランスの『レキップ』紙は厳しく5.5と採点。ところが、イタリアの『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙が付けたのは、フランス代表全員中、最高の7だった。ところ変われば、フットボールも変わるのだ。

 何にせよ、この試合で唯一修正されないままだった攻撃面を、ドメネク監督はどう見たのだろう。普段通りベンチにいたら、いったいどんなカードを切ったのだろうか。加えて、この試合でアンリが今予選3枚目のイエローカードを受けたため、累積警告で次のスコットランド戦は出られない。指揮官の頭には、既に対策があるのだろうか?
 だが、待ち構える報道陣の前を、ドメネク監督は小走りで通り過ぎていった。こんな言葉を残して。
「私は出場停止中なんでね……」

1/2ページ

著者プロフィール

1976年生まれ。大阪府出身。大阪外国語大学フランス語学科卒業。在学中にパリへ留学、そこで98年フランス代表の優勝を目の当たりにする。帰国後1年半のメーカー勤務を経て、現在東京のTV番組制作会社でサッカードキュメンタリーなどの番組制作に携わる。「サッカーをよく知らなくても面白い、サッカーファンならなおさら面白い」ものを書くのが信条

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント