エースがつかんだ栄誉と自覚 天皇杯・皇后杯全日本選手権

田中夕子

代表で、チームで、苦渋を味わったJTの直弘(左)。弱さに気づき、強い気持ちを持ったとき、道は再び開かれた―― 【写真は共同】

 今季からリニューアルしたバレーボールの「天皇杯・皇后杯 全日本選手権」は6日、とどろきアリーナで男女決勝戦が行われ、男子はJTが初代王者に、女子は東レが初代女王に輝いた。

 男子決勝は、JTと堺の対戦となった。JTは昨年ケガに泣いたエースの直弘龍治が今大会から出場し、高い決定率を記録している。一方の堺は、昨年単身でブラジルに渡った石島雄介が復帰し、リーグでも4連勝と好調。攻撃力の高い両チームの対戦は、まずJTが2セットを先取。続いて堺が反撃し、2−2でフルセットへと突入した。
 最終セットも石島、直弘の両エースによる打ち合いが繰り広げられ、きん差のまま終盤を迎えたが、13−12から直弘がブロック、スパイクで連続得点を挙げJTが接戦を制した。

直弘、ベンチメンバーを外れた焦り

 昨年の6月、日本代表の試合であるワールドリーグを前に直弘龍治が掲げた目標はただ1つ。
「日本のエースになりたい」
 しかし、思い通りの活躍はできず、その後は足首の捻挫(ねんざ)でアジア選手権メンバーから外れた。さらに北海道・芦別での合宿期間中には古傷である首のヘルニアが悪化し、痛みは肩にまで広がった。北京五輪出場権を懸けたワールドカップ代表の12人からも漏れ、チームで観戦に訪れたW杯広島大会では21歳の新鋭・清水邦広の活躍を目の当たりにした。悔しさを抱きながらも、一方で「ケガをしたから仕方ないと、ケガを理由にしていた。『絶対に残りたい』という気持ちを強く持てていなかったのかもしれない」。 どこかで逃げ道をつくっていた。

 V・プレミアリーグの開幕を控えた12月になっても肩の痛みは消えない。それでも「ベンチの12人には入るだろうと思っていた」。ところが、開幕以後、12人のなかに直弘の名はなかった。
「ベンチを外れたのは初めて。監督から『大事なところで使うから』と言われたけれど、ショックだし、悔しかったし、ここでアピールしないともう入れないと焦っていた」

 リーグ中の年末年始に行われた、天皇杯のベスト4をかけて臨んだ豊田合成戦では、第1セットから35−33という激闘が繰り広げられた。直弘は3セット目の途中で足をつり、第4セットに入ると全身がけいれんしていた。自身はコートから外れたが、チームメートが奮闘し3−1で勝利をつかみ準決勝進出を決めた。
「もっと信頼されるプレーをしたいし、しなきゃならないと思う」
 今年で30歳になる。これから劇的に技術が変化するとは思えない。だからこそ、高めなければならないのは勝利への強い意志と気持ち。そして、自分がエースだという自覚。

 初代王者に向け、チーム全体が盛り上がっていた。
「気持ちがプレーにつながって、ボールを落とすことがなかった」
 リベロの酒井大祐が言うように、決勝でもJTの守備力が光る。サーブ時以外は後衛の守備にはつかないセンターの尾上健司が「構えていたら、ど真ん中に来た」というスパイクレシーブを上げ、直弘にボールをつなぐ。
「(尾上とは)同級生だし、こういうボールは絶対決めんといけんと思って打った」
 盛り上げるべき人がプレーでもり立てる。2−0で先行しながら堺の追い上げに屈し、フルセットへと突入したが、「直弘の勝利への意気込みが素晴らしかった。勢いを止めることができなかった」(堺・中垣内祐一監督)。両チームの選手中最多となる45本のスパイクを取ったエースが放ったレフトからのスパイクで15点目が刻まれ、フルセットの激闘を制した。

「どんな状況でも、強い気持ちがあれば絶対に道は開ける」
 今度こそ「JAPAN」のユニフォームを着て、五輪の挑戦権をつかむ――。
 北京五輪最終予選まで残り5カ月。直弘が、再び日本のエースへ名乗りを上げた。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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