エースがつかんだ栄誉と自覚 天皇杯・皇后杯全日本選手権
代表で、チームで、苦渋を味わったJTの直弘(左)。弱さに気づき、強い気持ちを持ったとき、道は再び開かれた―― 【写真は共同】
男子決勝は、JTと堺の対戦となった。JTは昨年ケガに泣いたエースの直弘龍治が今大会から出場し、高い決定率を記録している。一方の堺は、昨年単身でブラジルに渡った石島雄介が復帰し、リーグでも4連勝と好調。攻撃力の高い両チームの対戦は、まずJTが2セットを先取。続いて堺が反撃し、2−2でフルセットへと突入した。
最終セットも石島、直弘の両エースによる打ち合いが繰り広げられ、きん差のまま終盤を迎えたが、13−12から直弘がブロック、スパイクで連続得点を挙げJTが接戦を制した。
直弘、ベンチメンバーを外れた焦り
「日本のエースになりたい」
しかし、思い通りの活躍はできず、その後は足首の捻挫(ねんざ)でアジア選手権メンバーから外れた。さらに北海道・芦別での合宿期間中には古傷である首のヘルニアが悪化し、痛みは肩にまで広がった。北京五輪出場権を懸けたワールドカップ代表の12人からも漏れ、チームで観戦に訪れたW杯広島大会では21歳の新鋭・清水邦広の活躍を目の当たりにした。悔しさを抱きながらも、一方で「ケガをしたから仕方ないと、ケガを理由にしていた。『絶対に残りたい』という気持ちを強く持てていなかったのかもしれない」。 どこかで逃げ道をつくっていた。
V・プレミアリーグの開幕を控えた12月になっても肩の痛みは消えない。それでも「ベンチの12人には入るだろうと思っていた」。ところが、開幕以後、12人のなかに直弘の名はなかった。
「ベンチを外れたのは初めて。監督から『大事なところで使うから』と言われたけれど、ショックだし、悔しかったし、ここでアピールしないともう入れないと焦っていた」
リーグ中の年末年始に行われた、天皇杯のベスト4をかけて臨んだ豊田合成戦では、第1セットから35−33という激闘が繰り広げられた。直弘は3セット目の途中で足をつり、第4セットに入ると全身がけいれんしていた。自身はコートから外れたが、チームメートが奮闘し3−1で勝利をつかみ準決勝進出を決めた。
「もっと信頼されるプレーをしたいし、しなきゃならないと思う」
今年で30歳になる。これから劇的に技術が変化するとは思えない。だからこそ、高めなければならないのは勝利への強い意志と気持ち。そして、自分がエースだという自覚。
初代王者に向け、チーム全体が盛り上がっていた。
「気持ちがプレーにつながって、ボールを落とすことがなかった」
リベロの酒井大祐が言うように、決勝でもJTの守備力が光る。サーブ時以外は後衛の守備にはつかないセンターの尾上健司が「構えていたら、ど真ん中に来た」というスパイクレシーブを上げ、直弘にボールをつなぐ。
「(尾上とは)同級生だし、こういうボールは絶対決めんといけんと思って打った」
盛り上げるべき人がプレーでもり立てる。2−0で先行しながら堺の追い上げに屈し、フルセットへと突入したが、「直弘の勝利への意気込みが素晴らしかった。勢いを止めることができなかった」(堺・中垣内祐一監督)。両チームの選手中最多となる45本のスパイクを取ったエースが放ったレフトからのスパイクで15点目が刻まれ、フルセットの激闘を制した。
「どんな状況でも、強い気持ちがあれば絶対に道は開ける」
今度こそ「JAPAN」のユニフォームを着て、五輪の挑戦権をつかむ――。
北京五輪最終予選まで残り5カ月。直弘が、再び日本のエースへ名乗りを上げた。
<了>
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ