“天才”木村沙織が踏み出した第一歩 天皇杯・皇后杯全日本選手権
昨秋の代表戦後、さらなるレベルアップを誓った木村。チームの中心として、一つ目のタイトルを手にした 【Photo:Atsushi Tomura/アフロスポーツ】
これまでは、4月29日〜5月6日までのゴールデンウィーク期間に、大阪で「黒鷲旗 全日本選手権」が開催されていたが、今季からは小学生を除くすべての6人制チームに挑戦の門下が開かれ、4月の各都道府県予選、さらに9・10月のブロックラウンド予選を経て、V・プレミアリーグの18チーム(男子8、女子10チーム)を加えたセミファイナルラウンド進出の計24チームが、1月2〜6日の短期間で日本一の座を競う。
そんななか、短期決戦を勝ち抜いたのが昨年のリーグ、5月に開催された黒鷲旗全日本選手権の覇者である久光製薬と東レ。日本代表のリベロ・佐野優子を中心とした手堅い守備を誇る久光に対し、東レは木村沙織、荒木絵里香など高さのある選手を擁する。
ともに短期決戦を勝ち抜いた勢いを持っていたが、今大会からドミニカ代表のデラクルス・デペニャ・ベタニアが加わり、攻撃力に厚みが増した東レが序盤から荒木のブロックや、木村の攻撃で久光を圧倒し、3−0で勝利した。
ピンチを救った木村のプレー
レフトサイドのアンテナぎりぎりのところで跳び、身体はストレートを打つように正面を向いているにかかわらず、放たれたボールは体の向きとは違う相手コートの右端に落ちる。トップアスリートのみが持つ独自の感覚と、バレーセンス。木村のスパイクは、「彼女はやっぱり天才だ」と玄人をうならせる。
しかしそんな「天才」も、全日本のメンバーとして戦った昨夏のワールドグランプリでは不調にあえぎ、昨秋のワールドカップでも「守備も崩されてしまったし、攻撃でも決め切れなかった。すべてのプレーを底上げしなければダメだと思った」と力不足を痛感していた。
ワールドカップ終了後、休む間もなくリーグ、今回の天皇杯・皇后杯に突入した。全日本ではライトの木村も、所属する東レではレフトに入りサーブカットもこなし、スパイクも打つ。チームでの木村には、チーム1の得点を叩き出すような爆発的な攻撃力ではなく、勝負を決するポイントで「きっと何とかしてくれる」ことが求められている。現に、皇后杯準決勝のJT戦では木村のアタック決定率は22.7%、決勝でも39.1%と決して高い数字ではない。しかし、その数字以上に、クロスに打つと見せかけて放つストレート、アタックラインに落ちるような鋭角なクロススパイクなど、木村らしいスパイクが随所で、しかもラリーの最後で何度も発揮された。
セッターの中道瞳は、「沙織の負担は大きいと思う。でもブロックが1枚や1枚半になれば確実に決めてくれる選手なので、大事な場面では頼ってしまう」と木村の存在感の大きさを実感している。
その木村が、皇后杯決勝で巧妙なプレーを見せた。久光のパブロワ・イエレナの前にポトリと落とした3本のパスフェイントだ。東レのサーブカットが崩れたのを見たパブロワは、チャンスで返ってくるであろうボールを攻撃しようと、アタックライン後方で構えていた。木村はそれを見逃さず、オーバーパスでフェイントを落としたのだ。想定外のボールにパブロワは動けず、東レのピンチは一転して得点に変わった。
「ずいぶん前が空いているのが見えたし、あそこに落とされたら嫌だなと思ったから、やられる前にやっちゃえと思って落としたのが成功した」
性格が出るのかなと微笑む顔には余裕が浮かぶ。
17歳で代表入りを果たした“サオリン”も、21歳になりVリーガーとしても3年目を迎えた。菅野幸一郎監督も
「チームにいる時間が少ないなかでも、何とか中心になろうと一生懸命やろうとしてくれているのがはっきり見て取れる」
木村の変化を感じている。
「チームがいい状態なので、自分ばかり決めなくても、みんなで点が取れる。だからその分は、声を出したり、守備で頑張ろうと思っていた。自分がやらなければならないことが、いっぱいあると思う」
長く続くシーズンに向けまず1つ目のタイトルを手にした木村。チームの、そして日本の中心選手として、「天才」が歩みを続ける。
<了>
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ