MVPの二人が放った存在感
MVP初受賞の荒木。全日本で得た「世界への意識」を念頭に、リーグを戦った 【(C)坂本清】
女子:東レが初V 荒木、文句なしのMVP初受賞
「(日本代表での)ワールドカップでは完全燃焼することができなかった。だから、その分リーグでも『世界で戦う』ことを常に頭に置いて、4カ月戦いきるうえでの目標にしていた。それが良かったのかもしれません」
荒木自身が、今季の課題として掲げていたのがブロックの決定率を高めることだった。もちろんそれは世界との対戦を通して得た課題であり、このリーグでそれがクリアできなければ、世界では到底通用しない。
「クイックも大事だけれど、まずブロック。ワンタッチも含め、とにかくブロックで必ずタッチすること。ブロックはかなり重点を置いてやってきました」
その言葉が示すように、他チームにとって荒木はまさに“壁”と化した。出場セット97で100得点、1セットに換算すると25点のうち1点は荒木のブロック得点という高い得点率を記録し、初のブロック賞も獲得した。
初Vに喜ぶ、東レの選手たち 【(C)坂本清】
「サイドアウトだけでなく、(自分にトスを)持ってきてと言われることが心強かった」と言い、菅野幸一郎監督も
「チームリーダーとしてよくチームをまとめてくれた。苦しいときにも、一番声を出していたのが荒木。彼女の存在に本当に助けられたと思う」
と称賛する。
ブロック賞に加え、シーズンを通して最も高いスパイク決定率を記録した選手に送られるスパイク賞も初受賞。着実な成果を示したプレー面に加え、指揮官も認めた“リーダー”としての存在感。まさに文句なしのMVPだった。
男子:36年ぶりVのパナソニック 意識改革のシンボルとなった山本
全日本でもスーパーエースを務める山本が、MVPに輝いた 【(C)坂本清】
さらに、今季から指揮を執る南部正司監督のもと、夏場のトレーニングで選手たちは心身を鍛え上げた。そして「優勝を知らない集団」を「勝てる集団」へと意識改革させるべく、リーダーとして気を吐いたのが山本だった。
今シーズンも含め、バレーボールでは、点差や展開がきん差になればなるほど、審判の下す微妙なジャッジで試合の展開が大きく変わってしまうことが少なくない。そんなとき、大きな声でその先頭に立って抗議をしたのが山本であり、時には露骨なまでに不満をあらわにし、注意を受けることもあった。
「言わないほうがいいのは分かっているけど、熱くなっていると1点の重みも違いますからね。良くないなぁとは思っているけど、去年まではそういう場面が多かったと思います」
36年ぶりのリーグ制覇を果たしたパナソニック 【(C)坂本清】
たとえば、3レグでの堺戦でもこんなことがあった。パナソニックが優勢に進めているなか、ワンタッチの有無をめぐり、試合が中断する。パナソニックサイドからは「それは触っているだろう」という抗議がなされた。しかし、判定は変わらない。怒りと落胆に揺れるベンチのなかで、山本は若手に向けて
「ここで気持ちを切るな。勝つぞ」
と声を荒げた。その姿を見た南部監督が試合後に記者から勝因を問われ、答えたのがこの言葉だった。
「これまでであれば、ああなったら山本はプレーでもキレてしまったと思う。でも、あそこで気持ちを外に向けずに、チームをまとめようと(気持ちを)内側に向けていた。成長したなと思いました。今日は彼のおかげで勝ったと言えるでしょう」
厳しい環境のなかでも、自身がすべきことをまっとうする。リーダーとして、エースとして芽生えた自覚が、山本にとっても初めてのVリーグチャンピオンという栄誉を引き寄せた。
「けがが治れば絶対できる、戦えるという自信があった。その成果が出た大会であり、歴史に名前を刻めたことがうれしい」
MVPに授与されるブランデージトロフィーを手に、日本のエースがほほ笑んだ。
ワールドカップを終え、わずか数週間後に開幕したV・プレミアリーグを戦い終え、次は北京五輪出場を懸けた戦いが幕を開ける。女子は前回大会に続く出場を目指し、そして男子はバルセロナ以後、4大会ぶりの五輪出場権の獲得を目指す。
<了>
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