MVPの二人が放った存在感

田中夕子

MVP初受賞の荒木。全日本で得た「世界への意識」を念頭に、リーグを戦った 【(C)坂本清】

 バレーボールのV・プレミアリーグは、4月5〜6の両日に男女決勝戦が行われ、男子はパナソニックが、女子は東レがともに「Vリーグ」と名称変更後、初優勝を飾った。(※注 東レの前身はユニチカ。東レになってからは初)

女子:東レが初V 荒木、文句なしのMVP初受賞

 混戦が予想された女子だったが、荒木絵里香、木村沙織ら全日本組を擁する東レは開幕当初から勝ち星を積み上げた。毎年「優勝候補」として名が挙げられる強豪チームではあったが、今シーズンの強さを支えた最大の功労者は最優秀選手賞(以下、MVP)にも輝いた荒木と言って間違いないだろう。

「(日本代表での)ワールドカップでは完全燃焼することができなかった。だから、その分リーグでも『世界で戦う』ことを常に頭に置いて、4カ月戦いきるうえでの目標にしていた。それが良かったのかもしれません」

 荒木自身が、今季の課題として掲げていたのがブロックの決定率を高めることだった。もちろんそれは世界との対戦を通して得た課題であり、このリーグでそれがクリアできなければ、世界では到底通用しない。
「クイックも大事だけれど、まずブロック。ワンタッチも含め、とにかくブロックで必ずタッチすること。ブロックはかなり重点を置いてやってきました」
 その言葉が示すように、他チームにとって荒木はまさに“壁”と化した。出場セット97で100得点、1セットに換算すると25点のうち1点は荒木のブロック得点という高い得点率を記録し、初のブロック賞も獲得した。

初Vに喜ぶ、東レの選手たち 【(C)坂本清】

 全日本でもレギュラーの座をつかみ、「不完全燃焼だった」とは言いながらも、試合に出続けて得た自信はプレー以外でも随所に発揮された。司令塔としてトスを上げた中道瞳は
「サイドアウトだけでなく、(自分にトスを)持ってきてと言われることが心強かった」と言い、菅野幸一郎監督も
「チームリーダーとしてよくチームをまとめてくれた。苦しいときにも、一番声を出していたのが荒木。彼女の存在に本当に助けられたと思う」
と称賛する。

 ブロック賞に加え、シーズンを通して最も高いスパイク決定率を記録した選手に送られるスパイク賞も初受賞。着実な成果を示したプレー面に加え、指揮官も認めた“リーダー”としての存在感。まさに文句なしのMVPだった。

男子:36年ぶりVのパナソニック 意識改革のシンボルとなった山本

全日本でもスーパーエースを務める山本が、MVPに輝いた 【(C)坂本清】

 日本リーグまでさかのぼると、実に36年ぶりの優勝を果たしたパナソニック。宇佐美大輔、山本隆弘といった国際経験も豊富な選手たちに加え、今季は23歳ながら抜群のスピードとスキルを誇るブラジル人、フォンテレス・ルイス・フェリペの存在が攻撃に幅を加えた。
 さらに、今季から指揮を執る南部正司監督のもと、夏場のトレーニングで選手たちは心身を鍛え上げた。そして「優勝を知らない集団」を「勝てる集団」へと意識改革させるべく、リーダーとして気を吐いたのが山本だった。

 今シーズンも含め、バレーボールでは、点差や展開がきん差になればなるほど、審判の下す微妙なジャッジで試合の展開が大きく変わってしまうことが少なくない。そんなとき、大きな声でその先頭に立って抗議をしたのが山本であり、時には露骨なまでに不満をあらわにし、注意を受けることもあった。
「言わないほうがいいのは分かっているけど、熱くなっていると1点の重みも違いますからね。良くないなぁとは思っているけど、去年まではそういう場面が多かったと思います」

36年ぶりのリーグ制覇を果たしたパナソニック 【(C)坂本清】

 今季からは宇佐美がキャプテン、山本が副キャプテンになり、これまで以上に「チームを引っ張る」意識が加わり、審判への態度も後輩への態度も少しずつ変化が見て取れるようになった。
 たとえば、3レグでの堺戦でもこんなことがあった。パナソニックが優勢に進めているなか、ワンタッチの有無をめぐり、試合が中断する。パナソニックサイドからは「それは触っているだろう」という抗議がなされた。しかし、判定は変わらない。怒りと落胆に揺れるベンチのなかで、山本は若手に向けて
「ここで気持ちを切るな。勝つぞ」
と声を荒げた。その姿を見た南部監督が試合後に記者から勝因を問われ、答えたのがこの言葉だった。
「これまでであれば、ああなったら山本はプレーでもキレてしまったと思う。でも、あそこで気持ちを外に向けずに、チームをまとめようと(気持ちを)内側に向けていた。成長したなと思いました。今日は彼のおかげで勝ったと言えるでしょう」

 厳しい環境のなかでも、自身がすべきことをまっとうする。リーダーとして、エースとして芽生えた自覚が、山本にとっても初めてのVリーグチャンピオンという栄誉を引き寄せた。
「けがが治れば絶対できる、戦えるという自信があった。その成果が出た大会であり、歴史に名前を刻めたことがうれしい」
 MVPに授与されるブランデージトロフィーを手に、日本のエースがほほ笑んだ。

 ワールドカップを終え、わずか数週間後に開幕したV・プレミアリーグを戦い終え、次は北京五輪出場を懸けた戦いが幕を開ける。女子は前回大会に続く出場を目指し、そして男子はバルセロナ以後、4大会ぶりの五輪出場権の獲得を目指す。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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