集大成の王監督、開幕戦で最高の船出

田尻耕太郎

理想は「豪快な野球」

 王貞治監督が「集大成」という2008年シーズンが始まった。その幕開けは劇的な柴原洋の逆転3ランホームランだった。その瞬間、王監督は左手を高々と突き上げるお決まりのポーズで大喜び。「劣勢の試合だったけどこういう形で白星スタートを切ることができた。最高の形だね」と興奮気味に試合を振り返った。

 予期せぬ戦い方だった。ことしのテーマには「0.1秒 スピードアップ」を掲げ、ホームランや長打などの大技だけに頼らず走塁を含めた小技の意識を強く持つという方針を打ち出していた。開幕の前日にも「ことしは総合力で戦わないといけない。爆発的な力は出にくい。チーム力で戦っていくんだ」と話していた。
 しかし、王監督の本当の理想は違う。ホークスの本来の野球は「豪快な野球」という。そして、前回日本一に輝いた03年シーズンを「黄金期」と位置付けている。その年は井口資仁、松中信彦、城島健司が中軸に座り、3人で100本近い本塁打を放ち、いずれの選手も100打点を越えた。チーム打率2割9分7厘はプロ野球のシーズン記録だった。
「もう1度黄金期をつくらないといけない」
 昨季のシーズン終了後、王監督はそのように決意を語った。

積極的なスイングが生み出したサヨナラ弾

 今季の開幕を前にしたころ、王監督は選手たちに対して「積極的」という言葉を多用してげきを飛ばしてきた。若手選手に対しては「自分のスイングをしに打席に入っているんじゃない。相手はそうさせまいと投げてくる。ボールを壊してしまうくらいの気持ちで振りに行かないとダメなんだ」と強い口調でアドバイスを送った。
 そして、ホークスに開幕戦勝利をもたらしたのは「積極的」で「豪快」な野球だった。サヨナラ本塁打を放った柴原は「ボール球だったかもしれない」と振り返った。それでも彼は強振した。その直前にライトフェンス直撃の二塁打を放った松中も高めのボール球を無理やりたたいた。

 内容を問われれば、8回までわずかに5安打。東北楽天の岩隈久志ら3投手の前に打線が沈黙するなど、ダメ出しだらけの試合だった。しかし、終わってみればホークスの原点を見たこの日は、5年ぶりのリーグ優勝、そして日本一への最高の船出となった。

<了>
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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