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コラム〜水上の若きサムライたち〜

一番星の復活 井口佳典(後編)

井口 佳典(いぐち よしのり)選手

2012年7月15日更新 文:黒須田守(BOATBoy) 写真:中尾茂幸(BOATBoy)

一から出直し、完全復活へ

笑顔も爽快!
笑顔も爽快!

 08年の賞金王決定戦を優勝してから、スランプと言うしかない時期を過ごした井口佳典。転機は11年の途中に訪れている。
 この年、プロペラ制度が変わることが決まっている。実施は12年の春からだが、それ以前から選手たちにはアンケートが採られ、さまざまな場所で実験も行なわれている。制度の変更とは、選手持ちプロペラ制度の廃止。平成元年に導入されたこの制度では、選手がプロペラを購入し、規定の範囲内で自由に加工することが許されていた。選手たちはとことん研究し、強力な武器を作り上げていった。彼らのプロペラに対する感覚は流体力学の権威をも上回るといわれ、性能のいいプロペラを作ることができた選手がレースでも活躍するようになった。プロペラが、レースのゆくえや選手の成績などを大きく左右するようになっていたのである。
 新しい制度では、プロペラが選手の所有ではなくなり、モーターに配備される“一部品”となった。それまでは自分が所有するプロペラでレースに臨めたものが、新制度下のレースでは大雑把に言えば他人のプロペラでレースをすることになったのである。自分のレーススタイルや乗艇方法に合わせて作ってきたプロペラはもう使えない。どんなプロペラでも乗りこなさなければいけないし、新しい規定の範囲で調整をしなければならなくなったのだ。これが、井口にとっては大きなきっかけとなった。
 その制度が井口に適していた、というわけではない。井口は新しい制度の導入を耳にして、「一からやり直さなければならない」と感じたというのだ。つまり、それは出直しを強いられるものであった。そしてそれは、不振にあえいでいた井口にとっては、すべてを捨て去り新しい井口佳典を再構築するための契機ともなったのである。
 それがいきなり実を結んだわけではなかったが、11年10月の全日本選手権で井口は久しぶりに予選を突破。さらには優勝戦にも進出して、素晴らしいレースぶりで準優勝を果たしている。井口の実力が久々に満天下に見せつけられた瞬間であり、結果として再浮上の兆しを感じさせるものでもあった。

6月グラチャンでも活躍
6月グラチャンでも活躍

 年が明けて12年、井口は最初のGIである尼崎周年記念で優勝戦に進出しているが、結果がいきなり急上昇したわけではなかった。それでも、着実に何かが実を結びつつあったのだろう。ついに新プロペラ制度が導入された4月下旬からは、完全に調子を取り戻していく。
 そして迎えたSG笹川賞。新制度で行なわれる初めてのSGで、井口は快進撃を見せる。これまで蓄積してきたプロペラの知識と、新しい制度におけるレースやプロペラ調整への探究心が噛み合ったのか、予選では一度も舟券圏内から外れないという素晴らしい成績を残して、得点率トップで準優に進出している。レースぶりも積極果敢で、ファンを魅了。強い井口佳典が、完全に戻ってきていた。
 1号艇で出走した優勝戦では、進入で操縦席に大量の水が入ってしまうというハプニングが勃発。ボート全体の重量が増え、操縦席内で水が動くことからバランスが崩れるため、レースでは大きな不利になるものなのだが、井口はまるで動じずに好スタートを決め、1マークを豪快にターン。堂々と先頭に立った。それは2年半ぶりのSG制覇を成し遂げた瞬間。井口はトンネルを完全に脱出し、ふたたび頂点へと駆け上がったのである。
「今はもう、自信しかありません」
 苦悩を振り払った井口は、華麗に実力を発揮するようになった。続くSGグランドチャンピオン決定戦でも活躍を見せて優勝戦に進出。結果は4着だったものの、かつてSGで予選すら突破できなかった頃の面影は、いっさい払拭されていた。笹川賞の優勝戦でもハプニングがありながら乗り切ってみせたように、もともと精神力の強さには定評のある井口である。自信を取り戻した今、かつての強さが発揮されて当然。いや、苦悩の時期を経たぶんだけ、以前よりもさらに強くなっていると言っていいだろう。我々は今、さらに進化した井口佳典を目の当たりにしているのだ。
 現時点で獲得賞金ランキングは第1位。年末に賞金王決定戦の舞台に立っていることは間違いないだろう。井口は本栖養成所の第85期生としてデビューしているが、この期にはキラ星のごときスターが揃っていることから、彼らは「銀河系軍団」と呼ばれる。その一番星としての輝きを完全に取り戻した井口。今年後半の井口は、その輝きでボートレース界を照らしていくことだろう。

井口 佳典
井口 佳典 (いぐち よしのり)選手プロフィール

登録番号4024。85期。三重県出身。1977年8月22日生まれ。A型。 おもな優勝:08年笹川賞(平和島)、08年賞金王決定戦(住之江)、09年賞金王シリーズ戦(住之江)、12年笹川賞(浜名湖)

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