連載:輝きを取り戻した男たち

球界を代表する捕手へ、小林誠司が歩む道 4安打を放った夜もバットを振り続ける

前田恵

今季こそ好調を維持したい

4月は4割近い打率を残し、打撃面でも成長の兆しを見せている小林 【写真は共同】

「キャッチャーは“扇の要”であり、守りを優先してくれればいい」という声があれば、「キャッチャーでの配球を打撃に生かせば打てて当然」という声もある。即戦力捕手として期待され、巨人に入団したがゆえに、打撃面の物足りなさが常にその評価を妨げてきた小林誠司。今季こそ好調を維持し、元来高い評価を得ているキャッチャーとしての強みを生かして、巨人の正捕手争いを制するとともに、真に球界を代表するキャッチャーとしての名声を得たい。

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巨人の正捕手として期待され

 まだ開幕間もないころだった。ラジオのナイター中継で巨人戦の解説を務めた、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で正捕手として世界一を経験した、元千葉ロッテの里崎智也氏が、こう語った。

「小林が評価されるためにやらなければいけないのは、打つか優勝するかどちらかです」

 伝統の巨人から即戦力捕手として期待され、2013年にドラフト1位指名。強肩を武器に、ルーキーイヤーから徐々にスタメン出場を増やしていった。17年にはWBCで、日本代表の正捕手としてマスクを被った。初出場となったオールスター戦では初打席初本塁打を放ち、ゴールデングラブも受賞。翌18年の日刊スポーツ選手名鑑には、「打力さえつけば、球界を代表する捕手に」と書かれている。「バッティングが課題」「あとは打力」……表現こそ違えどプロ入り以降、耳にタコができるほど言い聞かされてきた言葉である。

 18年のシーズンが始まると、小林は打った。4月24日には、打率.375で首位打者に浮上。「史上4人目の“首位打者と最下位打者”になるか」といった見出しが早くも躍った。

「今もそうですが、ずっと打てていなかった現実がありましたから……。あのときは、いろいろな方にアドバイスをいただいて、とにかく“思い切ってやろう”という気持ちで打席に立っていました。積極的に、結果を恐れずどんどんバットを振っていく。練習からそういったことを強く意識して、それがうまく自分の体と一致した結果だったのではないかと思います」

 首位打者に躍り出たとき記者に囲まれ、「(打率は)いずれ下がるときがくるけれども、そのとき今の状態を忘れず、日々頑張っていきたいです」と謙虚に答えた小林。5月に入ると、確かに打率は下がっていった。最終的に、打率.219という数字は前年よりやや上がったものの、出場試合数も打席数も減らし、3年ぶりに規定打席にも到達しなかった。

「自分でやってきて、春先うまくいっていたことが、まだ体に染みついていなかった。技術的に、まだまだ力不足だったということですね。いいバッターは自分のルーティンをしっかり持っていて、どんなときでもバッティングをすぐ修正できる。“こうしたら、こうなる”という感覚が体に染みついているんです。僕にはまだそれがなく、打てていたときの感覚に戻せませんでした」

 盗塁阻止率(.341)こそ3年連続リーグトップで面目躍如したが、正捕手としてのポジション確保には一歩後退する形になってしまった。その陰で、“打てる捕手”大城卓三がじわじわ力をつけてきたのだ。

「今年は去年のようなことがないよう、いろいろなアドバイスを取り入れながら、練習に取り組んできました。練習のとき、意識しているのは“ボールの内側に入る”こと。“ボールを内から叩く”感覚ですね。そこを、コーチに見てもらいながらやっています」

原監督からマンツーマンで指導を受ける

4月19日には、プロ初となる4安打の固め打ちを見せた 【写真は共同】

 今春のキャンプでは、原辰徳監督からマンツーマンで打撃指導を受けた。

「原監督には、バットの出し方を教わりました。バットが体から離れると強く振れない。バットの軌道と体の使い方は、ボールを内から叩くことにもつながってきます。言い換えれば、バットが強く振れているときは、自分の形でしっかり振れている。ボールが見えているとき、ということですね」

 そして19年シーズンが開幕した。今季もスタートは好調だった。ボールをしっかり呼び込んで打てるようになったことに加え、オフのウエイトトレーニングで、それまでやや弱かったバットの振り出しが力強さを増した。3月に.286、4月は実に.395の高打率を弾き出したのである。

「体の状態、動きは日々違います。それを早く自分で感じ取って、バッティングの微妙なズレに“こうなっているから、こうしよう”とか、思い切った変化を加えるのも、大事なことだと思うんです」

 そのために、日々バットを振り続ける。試合前は早出し、ボールを打ち込む。試合後は素振りで、その日のバッティングを振り返る。自分のバッティングを動画で見ることもあれば、ひたすら“いい感覚”を思い出しながら、バットを振ってみることもある。

「試合のあとは、何か少しでも不安を残したまま何もせずに帰るより、しっかりバットを振って帰ったほうがいい。だからといって、不安がすべて解消するかといったら、そういうわけでもないんですよ。でも、その日のうちに反省すべきことを反省しておけば、また次の日頑張ろうという気持ちになれますから」

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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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