連載:初めてのセイバーメトリクス講座

「2番打者はバントすべき」を論破する! 初めてのセイバーメトリクス講座(5)

カネシゲタカシ

送りバントでランナーを進めてはいけない理由

2017年3月に行われたWBCオランダ戦。タイブレークの場面で送りバンツを決めた鈴木誠也 【Photo:YUTAKA/アフロスポーツ】

鳥越:まずはこの表を見てください。アウトカウントと塁の状況で24通りのパターンがありますが、それぞれの状況でどれだけ得点を期待できるか、というデータです。

カネシゲ:以前も出てきた表ですね。

【資料提供:鳥越規央】

鳥越:これで見ると無死一塁の得点期待値が0.821点なのに対し、1死二塁では0.687点と、微妙に減るんです

カネシゲ:本当だ! 0.1点以上も減ってますね。

鳥越:また、「勝利確率」というデータがあります。

カネシゲ:これも 前回出てきましたね。チームがその状況において、どれぐらい勝利に近いかをあらわすパーセンテージですね。

鳥越:例えば1回に無死一塁で走者を出たとします。そのときの勝利確率は58.5%です。では送りバントで1死二塁にしたら勝利確率はどうなるのか? 答えは57.1%。やっぱり減るんです

カネシゲ:やっぱりこっちも?

鳥越:減るんです。勝利確率を上げる作戦を取らなければいけないのに、犠牲バントでは減ってしまうんです。ちなみにこれはどのイニングにおいても同じです。例えば9回裏で1点取ろうという場面でも、無死一塁で送りバントをすると勝利確率は減ります

カネシゲ:ええ〜、だって9回裏無死一塁で送りバントは完全にセオリーじゃないですか?

鳥越:1点ビハインドでどうしても追いつきたいという場面で送りバントをすると、4%も勝利確率が落ちます。犠打は“アウトを1つあげて塁を進める”という作戦ですが、塁を1つ進めるプラス面よりも、アウトを相手に1つ与えるマイナス面のほうが大きい作戦といえます。

カネシゲ:プロレスで言えば“技をかけたほうが痛い”みたいなもんか(笑)。

鳥越:ただし9回裏、無死二塁を1死三塁にするときは勝利確率は上がります。犠牲フライで勝ちにつながるからですね。なのでタイブレーク方式での犠牲バントはありだと考えます。今年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)のオランダ戦で延長タイブレークになりましたよね。鈴木誠也が送りバントして、その後、中田翔がタイムリーを打って2点を取って。オランダは犠牲バントできませんでした。そこが勝負の分かれ目だったわけです。

カネシゲ:な、なるほど。そういう場面以外での送りバントは効果なし。なしどころかマイナスなんですね。だけど無死1塁の場面では解説者もこぞって「バントすべき」と言いますよ?

鳥越:長嶋茂雄さんが巨人の監督時代、2番に川相昌弘さんを置いて送りバントばかりやらせたというイメージもあるんでしょうか。確かに川相さんはバントの名手でした。でもOPSも高くて、例えば1994年にフル出場したときはOPSが「.733」、97年は「.747」でしたから。

カネシゲ:確かに川相さんは打率も高かったですね(94年は3割2厘)。

鳥越:だから穴になってなかったんですよ。1番が出なかったときは、自分で打って出ることができた。そして3番、4番につなげていたからこそ巨人は強かったんです。

カネシゲ:これからは楽天のように2番にすごくいいバッターを置く、というのが増えていきますかね。

鳥越:はい。今年の「打順別打撃成績」をさきほどの2013年のものと比べると、すでにその傾向は出ています。

【データ提供:データスタジアム】

カネシゲ:たしかに犠打は「46」から「31」に減って、OPSは「.647」から「.668」に上がっています。楽天のようなチームが出てきたからですね。

鳥越:それでもまだまだ穴になっていることがわかります。で、それがいかに効率が悪いかを証明するデータもあるんですよ。

カネシゲ:ほうほう。

鳥越:よく試合の実況で「次の回は打順良く1番からの攻撃です」って言うじゃないですか。それは“1番から始まることが一番得点確率が高い”という意味ですよね? では本当に1番からの打順が一番点を取れているのか、というのを調べたデータがこれです。

【データ提供:データスタジアム】

カネシゲ:おや、これで見ると2番から始まるのが一番得点確率が高い!

鳥越:はい、実は2番から始まるのが最も“打順良く”なんです。少なくとも、いまの日本の打線の組み方では。つまり2番打者は犠打なんかせず普通に打って、クリーンアップでかえすのが最も理にかなっているということです。

カネシゲ:じゃあ最初からそういう打線を組めばいいってことですね? 1番に出塁率の高い打者を置いて、2、3、4番のクリーンアップトリオで返すというメジャー流だ。

鳥越:そういうことです。最近はアマチュア野球でも1、2番に最強打者を置くチームが増えてきていますよ。

DeNAの「8番・投手」はとても面白い!

鳥越:このように打順はいろんな組み方があります。ただ2番にいい打者を入れておけば絶対勝てるのかというとそういうわけでもなく、前後を打つ打者も強くなければいけないのは言うまでもありません。

カネシゲ:そこはチーム事情や選手のコンディションに左右されるでしょうね。

鳥越:そんななか、私は横浜DeNAの「8番・投手」という作戦はとても面白いと考えています。

カネシゲ:わ、うれしい。僕はベイスターズファンですが、最初は面食らいました。「ウィーランド投手は打撃もいいから」という理由でシーズン途中に始まったのが、あれ次の日もやるんだ、また次の日も、と。気付いたら最後までやった(笑)。

鳥越:カブスを率いるマドン監督も8番にピッチャーを入れて、そして9番に若手で経験を積ませたいバッターを入れるんです。投手の前の8番では若手バッターは敬遠されがちになる。そうすると場数が踏めない。だけど9番に置くと勝負もしてもらえるし、気楽に打てる、と。

カネシゲ:DeNAでその「若手」は倉本寿彦にあたるわけですね。実際9番打者ながら50打点をあげる成績を残しました。

鳥越:そして3番に筒香嘉智を入れたじゃないですか。9、1、2番が塁に出て3番で返すという構図もできるわけです。

カネシゲ:1番・桑原将志もシーズンが進むにつれ調子をあげ、月間MVPを取るような活躍をしました。

鳥越:なので、それも考えての「9番・倉本」だったのかな、と。

カネシゲ:なるほど。また面白いのはDeNA全体のピッチャーの打撃の意識も上がったんですよね。打席で粘る姿勢を見せたりとか。「8番なんだからオレも打たなきゃ」という意識が芽生えたんだと思います。

鳥越:それがCSでの成績にも出ていましたね。ウィーランドはもちろんですが、石田健大も三嶋一輝も安打を放ち、井納翔一に至ってはファイナルステージ第3戦で決勝打を打ちました。

カネシゲ:広島はウィーランドの打撃を警戒しすぎて、やられたところがあります。ほんとユニークな打線ですよね!

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著者プロフィール

1975年生まれの漫画家・コラムニスト。大阪府出身。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にてデビュー。現在は『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)等に連載を持つほか、テレビ・ラジオ・トークイベントに出演するなど活動範囲を拡大中。元よしもと芸人。著書・共著は『みんなの あるあるプロ野球』(講談社)、『野球大喜利 ザ・グレート』(徳間書店)、『ベイスたん』(KADOKAWA)など。

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