「切り札」大松の心残りと来季への自信 〜燕軍戦記2017〜
ロッテ戦力外からテストを経てヤクルトに入団した大松、5月9日の広島戦で放った3年ぶりの一発は劇的サヨナラ弾となった 【写真は共同】
東京ヤクルトの真中満監督が球審に代打を告げると、神宮球場にはスウェーデン出身の名プロデューサーにして人気DJであるアヴィーチーの曲『The Nights』が鳴り響く。スタンドから沸き上がる大歓声は、スコアボードに表示された「155(1割5分5厘)」という打率にはおよそ似つかわしくないが、それこそが左のバッターボックスに入る背番号66──大松尚逸に対する期待の表れだった。
この日、10月3日の巨人戦はヤクルトの今シーズン最終戦であると同時に、今季限りで退団する真中監督にとってのラストゲーム。既にチームの最下位も決定し、負けの数も球団ワーストの95敗を数えていたとはいえ、試合前には監督自ら「たかが1勝かもしれないけど、最後はなんとか勝ちたい」と話していた大事なゲームである。
その大事な一戦、2点ビハインドの4回裏にヤクルトが2死一、二塁のチャンスを迎えると、真中監督が代打に送ったのが、常日頃から「ウチの切り札」と公言していた大松だったのだ。
チームも本人も苦しかった7月
「(ロッテの)フロントにっていう話もあったんですけど、詳しい話を聞く前に僕が『(現役を)続けたいです』って言ったんでね。まだ終われないって思ってたし、そういう気持ちがある限りは(現役を)続けるべきやと思ってました」
その大松に救いの手を差し伸べたのがヤクルトだった。今春のキャンプで入団テストを行い、獲得を決定。オープン戦の2軍帯同を経て開幕1軍入りを果たした大松は、まだアキレス腱の状態が万全ではないこともあって主に代打で起用されると、5月9日の広島戦では延長12回裏に自身3年ぶりの本塁打となる代打サヨナラ弾を放つなど、存在感を発揮した。
だが、チームは5月下旬から引き分けを挟んで10連敗を喫し、最下位に転落。さらに7月には47年ぶりの14連敗と、泥沼にはまり込んでしまう。大松自身は足の不安も徐々になくなり、6月にはしばしば先発メンバーにも名を連ねるようになっていたが、バットから快音はなかなか響かない。この時期が、今シーズン最も苦しかったという。
「7月……たくさん連敗してる時ですよね。ちょうど監督もそういうふうになった(辞意を固めた)時っていうのが一番苦しかったですね」
チームの連敗は22日の阪神戦(神宮)でストップしたものの、この時点で大松の7月の成績は19打数1安打(代打では11打数1安打)。2軍落ちが頭をよぎったこともあったというが、真中監督の信頼は揺るがなかった。