東京五輪へ「厳しさの方が大きい」 伊東強化委員長が世界陸上を総括

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男子4×100メートルリレーの銅メダルを含めた「メダル3、入賞2」となった世界陸上の戦いを伊東強化委員長が総括した 【Getty Images】

 陸上の世界選手権(イギリス・ロンドン)が現地時間13日、10日間の熱戦を終え、閉幕した。

 今大会の日本勢は、男子50キロ競歩で荒井広宙(自衛隊体育学校)が銀メダル、小林快(ビックカメラ)は銅メダルを獲得し、丸尾知司(愛知製鋼)も5位入賞を果たした。また男子4×100メートルリレーでは、多田修平(関西学院大)、飯塚翔太(ミズノ)、桐生祥秀(東洋大)、藤光謙司(ゼンリン)の4人がイギリス、米国に続く3位。そして世界的な“センセーション”となったのが18歳のサニブラウン・アブデル・ハキーム(東京陸協)。男子200メートルで決勝に進出し、7位入賞を果たした。

 これらの結果を受け、日本陸上競技連盟の伊東浩司強化委員長が、現地で今大会の総括を語った。

重点強化種目でのメダル「3」を評価

 今大会の日本勢の結果について、伊東委員長は「メダルや入賞というのは、当初から(目標として)掲げていませんでした。メダルを目指していく者、世界陸上で決勝、準決勝を目指す(者)というカテゴリーを作り、その一番重点とする競歩とリレーでしっかりと成果を出したと思います」と評価。日本陸連は昨年11月に強化組織を改編し、種目によって、金メダル獲得を目指す「ゴールドターゲット」、メダル獲得を狙う「メダルターゲット」、入賞を目標とする「TOP8ターゲット」、アジアチャンピオンを経て世界レベルへの強化を目指す「ワールドチャレンジ」と4カテゴリーに分けた。「ゴールドターゲット」である競歩と男子4×100メートルリレーは、こうした中で獲得したメダルでもあった。

 一方、「メダルターゲット」に属する男子400メートルハードル、男子棒高跳、男女やり投では、安部孝駿(デサントTC)が男子400メートルハードルで準決勝進出を果たしたものの、それ以外の選手は予選で敗退し、期待に応えることができなかった。これを受けて伊東委員長は、「年内の事業を進めるのではなくて、ここでいったん振り返りをしっかりして、カテゴリーにあった活躍ができるような体制を作り直していきたい」と話し、今大会ではそのための再確認ができたと強調した。そして、2020年の東京五輪を見据えて「私がこの役職を受けた時から、陸上界の世界の中では(日本が)厳しいポジションにいるという下で、この組織を作らせていただいた。期待もある反面、厳しさの方が大きい。それが正直な感想です」と付け加えた。

世界での活躍には“脱国内”が必須

 また今回は、国際陸上競技連盟からの「インビテーション(招待)」で出場を果たした5選手の中で明暗が分かれた。

 この中では、女子100メートルハードルの木村文子(エディオン)が、世界陸上で日本勢初の準決勝進出を果たした。伊東委員長は、「インビテーションがあることも意識して、標準記録突破を狙って私たちが設定した南部記念、アジア選手権という大会が終わった後も、世界ランキングを常に意識しながらトレーニングしてもらっていたのかなと思います。このように“脱国内”を感じて、取り入れていければなと思います」と、国内の選考やランキングだけでなく、常に世界を意識した取り組みが必要だとする。

 しかし、招待を受けた選手の中で結果を残すことができたのは木村のみ。「(海外の)グランプリ大会では『ウエーティング』という制度(※編注:大会で欠場者が出た場合に、ウエーティングリストの上位者から繰り上がりでエントリーされる制度)があって、常に世界の情勢を気にしますが、インビテーションでは、世界のランキングを見る習慣があまりなかったと思います。インビテーションにかかるという予想ができれば、また少し違ったトレーニングでこの大会に臨めたと思います」と反省を口にした。

 そして「情報戦略というところでは、陸連としても組織を立ち上げて、インビテーションはどの程度であるか、一定数の選手をピックアップしていましたが、その種目に対して何名にインビテーションが来るかというのが分からない状態でした。今回はそのことで混乱を招いてはいけないということでしたが、その辺りが今後の課題だと思います」と今後を見据えて語った。

2018年アジア大会でさらなる底上げを

強化カテゴリーの「ワールドチャレンジ」にあたる女子100メートルハードルでは木村文子(写真)が準決勝進出。今後に向けて弾みをつけた 【写真は共同】

 個別の種目について聞かれると、男子4×100メートルリレーは「多田選手が入ったように、リレーメンバーは必ずしも固定の状況ではなくなった。その(メンバーが固定された)状況が長く続いていたのですが、切磋琢磨(せっさたくま)して競争できるような状況になりました。(練習拠点は)ハキーム選手は海外になるかもしれませんし、ケンブリッジ(飛鳥)選手もこの先どうなるか分かりません。ですが、日本選手権が一番の選考会で、ピークを迎えられるような関係であれば、この先も国際大会で十分活躍できると思います」と、日本選手権を最重要大会としてリレーメンバーをセレクトしていくとした。

 また今大会での結果が厳しかった種目に関しては、「(出場選手が)参加標準記録を1回しか突破していない種目も多く見受けられました。やはり2019年のドーハ(世界陸上)は翌年の東京(五輪)に直結しますから、できるだけ複数回、参加標準記録を突破する選手が出てきてもらえればなと感じています」と、安定して世界と戦えるレベルの記録をマークし、本番で力を発揮してほしいとの期待を示した。

 2018年は世界大会がない年。そのため、ターゲットとなるのがアジア大会(インドネシア・ジャカルタ/8月〜9月)になる。「『ワールドチャレンジ』というアジアを中心にした(強化)カテゴリーもあります。陸上に関しては、一概に強い種目だけを強化するという方式は取りづらいと思っていますので、そのあたりはアジア大会の年に、かじ取りをしなければいけないと思っています。今大会で経験を積んだ選手が、東京へまったく影響がないということが起こらないように、やはり今回出たことによって、世界というものを知る選手が多かったと思いますので、アジア大会が終わった段階でさらなる方向性を詰めていければと思います。やはり(世界陸上に)出場できる種目、1度でも標準記録を破った種目を大事にし、世界を感じるというのは重要かと思います」と、アジア大会の結果をさらなる強化施策の指標する考えを明かした。

 2020年東京五輪まで残り3年を切った。日本陸上界として、最大の目標は地元開催の五輪で「メダル5、入賞7」。この数字を達成するために、ロンドンでの結果を指標に、さらなる形で強化を進めていく。

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)
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