FC今治が乗り越えるべき「JFLの壁」 「門番」とのスコアレスを評価すべきか?

宇都宮徹壱

「スタジアムの壁」「入場者数の壁」「全国リーグの壁」

2年目を迎える今治の吉武監督。「JFLの壁」をどう乗り越えようとしているのか? 【宇都宮徹壱】

 J3リーグが開幕した3月11日と12日、1週早くシーズンをスタートさせたJFLのファーストステージ第2節が各地で開催された。今季、四国リーグから昇格したFC今治は12日、今治市の隣、西条市にあるひうち陸上競技場にて、昨シーズンの覇者・Honda FCを迎える。今治にとっては、JFLに昇格して初めてのホームゲームであった。

 長年、このカテゴリーを取材してきて個人的に着目しているのが、地域リーグからの昇格組が「JFLの壁」をどのようにクリアするのか(あるいは苦しめられるのか)ということである。「JFLの壁」は、大きく3つが挙げられる。まず「スタジアムの壁」、次に「入場者数の壁」、そして「全国リーグの壁」である。それぞれの「壁」を今治に当てはめて考えてみたい。

 まず「スタジアムの壁」。JFLにはJリーグのようなライセンス制度はないが、人工芝での試合は認められていない。よって、昨年昇格したブリオベッカ浦安は、関東リーグ時代に使用してきた浦安市運動公園陸上競技場が人工芝だったため、遠く離れた柏の葉公園総合競技場でのホームゲーム開催を余儀なくされた。今治の場合は、9月10日に5000人収容の夢スタ(ありがとうサービス. 夢スタジアム)がこけら落としとなる予定だが、それまでは各地を転々としながらホームゲームを開催しなければならないのである。

 これと関連して注目したいのが「入場者数の壁」である。今回の会場は、今治市から車で1時間ほどの距離にある西条市のひうち陸上競技場。この距離感は、集客にどう作用するのだろうか。加えてこの日は、J2でカマタマーレ讃岐vs.愛媛FCの四国ダービーがあり、さらには全国のB級グルメやゆるキャラが集結する今治ABC(えびす)祭2017が開催されることになっていた。これらのイベントが重なることに加えて、今治にとってはクラブ史上初となる有料試合。四国リーグ時代は無料で見ることができたホームゲームが、今年から入場料1000円(一般前売券の場合)を支払わなければならない。倹約家が多いことで知られる、今治市民の反応が大いに気になるところだ。

 最後に「全国リーグの壁」。これまで、四国という小さな枠の中で戦ってきた今治にとり、全国リーグはまさに未体験の戦いである。今季、対戦するのは「働きながら、週3〜4日練習している」ような、純然たるアマチュアチームではない。たとえ企業チームであっても、Jクラブと比べても遜色ない練習量を積んできている、完成度の高い相手ばかりだ。今回対戦するHonda FCは、その最たる例である。

「Hondaさん、シメてやってくださいよ」

JFLの「門番」として君臨する昨シーズンの覇者・Honda FC 【宇都宮徹壱】

 3つ目の「全国リーグの壁」の中でも、とりわけ高くそびえる壁として広く認識されているのが、「門番」の異名を持つHonda FCである。旧JSL(日本サッカーリーグ)時代からの名門は1999年のJFL参入以来、優勝6回、2位4回、3位1回という圧倒的な成績を残している。また天皇杯でも、「唯一のアマチュアチーム」であり「唯一の都道府県代表」として上位進出することが多く、前回の天皇杯では3つのJクラブに勝利して9年ぶりの4回戦進出を果たして話題となった。

 昨シーズンのJFLでは、ファーストステージは6位に終わったものの、セカンドステージでは1位となってチャンピオンシップに出場。ファーストステージを制した流通経済大学ドラゴンズ龍ヶ崎には、2試合合計3−2で勝利して、2年ぶりのリーグ制覇を果たしている。自らを孤高なるアマチュア王者と位置付け、「門番」という役割についても自覚的なHonda FC。当然ながら、メディアから注目を浴びている今治に対しては、無関心でいられるはずもない。

 開幕前のJFL監督ミーティングで上京していた井幡博康監督は、「他のチームも、メディアで取り上げられる今治を見ていて『あそこは上げさせないぞ』と思っているわけですよ。とりわけウチは『門番』なので、周りからの期待もあります(笑)」と語っている。「そういう期待」というのは、要するに「Hondaさん、シメてやってくださいよ」ということだ。その井幡監督、ラインメール青森との開幕戦(3−1で勝利)で異議による退席処分を受けたため、この日はベンチ入りせず。代わって関雅至コーチが指揮を執ることとなった。

 そんなチャンピオンをホームで迎え撃つ、新参者の今治。アウェーの開幕戦は、流経大と対戦して2−2で引き分けている。メンバーは、新加入の可児壮隆に代えて佐保昂兵衛を起用した以外は、前節と同じ顔ぶれとなっている。フリーマン(センターFW)には玉城峻吾、フロントボランチ(インサイドハーフ)には三田尚希と小澤司。攻撃の要となるポジションに、いずれも今季から加入した新戦力を据える一方で、ディフェンスラインをはじめとする他のポジションには従来の選手を起用しているのが特徴的だ。果たして、どれだけ新戦力がチームにフィットしているのか。そして、全国リーグの攻撃に対してディフェンス陣がどう対応するのか。このHonda FC戦は、まさにその試金石と言えよう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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