今年のテーマは「楽しむヤツが勝ち!」 JFLでFC今治を待ち受けるライバルたち

宇都宮徹壱

「ステージ優勝」で2位以内が確定するJFL

一堂に会した16人の監督たち。JFLは2ステージ制でタイトルが争われる 【宇都宮徹壱】

「楽しむヤツが勝ち!」

 これが、第19回を迎えるJFL(日本フットボールリーグ)の今季のスローガンである。「21世紀まであと2年」という1999年、JリーグがJ1・J2の2部制となり、それまで2部扱いだった旧JFL(ジャパンフットボールリーグ)が発展的に解消。「上を目指す」クラブがJ2となり、引き続き「アマチュアで活動する」ことを選んだクラブによって構成されたのが、現在のJFLである。

 今季のJFL開幕は3月5日。毎年、開幕前にはJFAハウスにて、全チームの監督が一堂に会する記者会見が行われる。といっても、Jリーグのキックオフカンファレンスのように、都内のホテルを借りての華々しいものではなく、各クラブが地元のお菓子を持ち寄っての和やかな交歓会という趣が強い。取材するメディアの数も限られているし、広報担当者がいても規制が緩いので、その気になれば各クラブの監督に取材し放題。このカテゴリーを取材する者には、非常にありがたい機会となっている。

 注目クラブの指揮官のコメントを紹介する前に、今季のJFLについて概要を説明しておこう。昨シーズンの所属クラブのうち、年間順位3位のアスルクラロ沼津がJ3に昇格。同16位のファジアーノ岡山ネクストが2016シーズンをもって活動停止となった。抜けた2チームに代わって、昨年の地域CL(全国地域サッカーチャンピオンズリーグ)で1位となったFC今治、そして2位のヴィアティン三重が、新たにJFLの一員として全国リーグを戦う。

 14年にJ3が創設されたことで、JFLは現状では「4部」の扱いとなっている。それでも、アマチュア唯一の全国リーグであることに変わりはないし、競技レベルもJ3と比べてもほとんど遜色ない。JFL初挑戦となる今治は、J3ライセンスを取得し、年間順位4位以内を確保すれば1シーズンでのJ3昇格が可能となる。

 ここで留意すべきは、JFLが「2ステージ制」を採用していることだ。ステージ優勝したチームは、チャンピオンシップで敗れても2位(すなわち昇格圏内)を確保できる。よって昇格を目指すチームは、必然的にステージ優勝を目指すこととなり、JFLは序盤戦から激しい勝ち点の奪い合いとなる。このレギュレーションこそ、1シーズン制のJリーグとの一番の違いである。

「勝ち点7が足りていない」(今治・吉武監督)

「勝ち点7」が足りていない今治。吉武監督は「選手とサポーターの力が必要」と語る 【宇都宮徹壱】

 それでは、指揮官たちの言葉を紹介することにしたい。まずは、囲みの記者の人数が最も多かった、FC今治の吉武博文監督。初めての全国リーグを戦うために、今季も岡田メソッドをさらに突き詰めてゆくのだろうか。吉武監督の答えはイエスでもノーでもなく、「バージョンアップ」というキーワードを挙げた。

「岡田メソッドが大々的に言われていると思いますけれど、まだ完成しているわけではないですし、いつ完成するのかも分からない。実際、トップチームはメソッドから離れるということは今後の課題だと思います。まずはいろんな意味でのバージョンアップ、すべての面でワンランクアップしていくことが必要だと思っています」

 一方で、今治のファンにとって楽しみなのは、5000人収容の新スタジアム「夢スタ(ありがとうサービス.夢スタジアム)」の完成だろう。しかし、こけら落としに予定されているのは9月10日の対ヴェルスパ大分戦。それまではひうち(西条市)やびんご(広島県尾道市)など、県内外のさまざまな会場でホームゲームを行うことになる。ポゼッション主体のサッカーゆえに「ピッチ状態が気になる」と語る吉武監督だが、移動については「地域リーグ時代も7〜8試合は四国の中を回っていましたから」と、特に心配はしていない様子。むしろ指揮官が気にしているのは「勝ち点7が足りていない」ことだと明かす。

「できるだけ多くの勝ち点を(取りたい)と、自分なりに計算をしています。ただ、選手によく言っているのは『7点足りないよ』と。メソッドやバックオフィス、そして岡田(武史)さんをはじめとした皆の力で取れる勝ち点だけでは、すべてうまくいくわけではない。そこで(勝ち点7をカバーするためには)選手とサポーターの力が必要となるわけです」

 吉武監督によれば、昨年の地域CL決勝ラウンドは、2位以内を確保するための勝ち点6は「メソッドだけでいける」という確信があったという。結果として3戦全勝で優勝できたのは、会場の千葉まで大挙して駆け付けたサポーター、そしてそれに奮起した選手たちの「絶対に優勝するんだ!」という強い思いがあってこそだった。あの時の選手、そしてサポーターの一体感というものを、JFLでの戦いでも期待したい。「勝ち点7が足りていない」という指揮官の言葉の裏には、そんな願いが透けて見える。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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