スタントンの言葉からにじむ危機感 敗退から学びWBC初制覇を狙う米国

丹羽政善

米国代表の中でも屈指の長打力を誇るスタントン 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 あの一発は、これまで見た中でも別格。敵地のファンが、声をなくすほど。

 2015年5月12日(現地時間)、ドジャー・スタジアムでのドジャースvs.マーリンズ戦。初回、マーリンズの主砲・ジャンカルロ・スタントンが放ったレフトへの一打は、はるか彼方まで飛んでいった。

 今回、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の決勝ラウンドが行われるドジャー・スタジアムは本塁打が出にくいことで知られるが、打った瞬間にそれと分かる打球は、レストスタンドを覆う屋根に当たって場外へ消えている。ドジャー・スタジアムでは史上5人目。レフトのスコット・バンスライクは一歩も動かず、打球を少し見上げただけだった。

 昨年、サンディエゴで行われたオールスターのホームランダービーでも優勝し、打撃練習でも軽々と打球をスタンドまで運ぶパワーはメジャーでも随一。14年11月に、北米スポーツ史上最高額となる13年総額3億2500万ドル(約380億円)で契約したそのスタントンは、今回も前回大会に続いて米国代表としてWBCに出場する。

ためらいなく出場を決意

「去年の夏頃、出場意思があるかどうか聞かれて、『ある』と伝えておいた」

 昨年は夏場に1カ月ほど左足付け根の故障で戦列を離れた。少しでも不安があれば、出場を見合わせたはずだが、すでに完治。クリスマスが終った頃に、「出てくれるか」と連絡があったとき、ためらいはなかった。

「野球選手が、国の代表としてプレーできる機会は少ない。俺たちは五輪にも出られないし、サッカーのワールドカップのような大会にも出られないからね。だからこそ、出られるなら出たいと思った」

 スタントンは、国のためにプレーすることは、「誇らしいこと」とも話したが、前回大会では2次ラウンドで敗退し、屈辱を味わった。その汚名を晴らすため、また、野球発祥の国としてのプライドを取り戻すためにフィールドに立ち、復権こそが使命となる。

「われわれがベストだということを、証明する必要がある」

 過去3回のうち、2回は決勝ラウンドに進めなかった。もう失態は許されない。思いを同じくする、好選手がそろった。スタントンは、「オールスターやMVPを取った選手がそろっている」と話したが、確かにビッグネームが名を連ねている。

 28人のうち、オールスター出場経験があるのは、スタントン、アンドルー・マカチェン、バスター・ポージー、ポール・ゴールドシュミットら17人。過去、リーグMVPに選ばれたのは、ポージーとマカチェンの2人。他にも、本塁打王や打点王などのタイトルホルダーが並ぶ。今回、戦力の面では、前回覇者のドミニカ共和国が一歩抜けていると見られているが、米国のそれも同等かそれ以上だろう。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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