引退を決めたフランク・ランパード 寡黙な「史上最高のMF」に感じる“男気”

東本貢司

「元スリーライオンズ黄金世代」で異質な存在

現役引退を発表したランパード(写真は2013年) 【写真:Action Images/アフロ】

 スティーヴン・ジェラード、マイクル・オーウェン、フランク・ランパード、ジェイミー・カラガー、デイヴィッド・ベッカム……この「順列」のココロは、ジェラードの36歳から順に、37歳、38歳、39歳、そしてベッカム41歳。「40歳」がやむなく「欠員」なのはお許し願うとして、こうして眺めてみると、同世代の中でジェラードが最年少なのは少し意外な気もする。だが、そんなことより、この5名の「元スリーライオンズ(イングランド代表の愛称)黄金世代」のうちで、1人、異質に思えて仕方がない存在が浮かび上がってくるとしたらどうか。

 それが他でもない、このほどニューヨーク・シティーFCを退団して現役引退を発表したランパード、その人だとしたら? そのココロとは?

男気を絵に描いたような個性

ランパード(左)は寡黙で、常に行動で証明してきた(写真は2005年) 【Bongarts/Getty Images】

 過去、ざっと20年余りを振り返ってみて、あくまでも筆者の経験と印象からひもといたとき、ランパードほど「寡黙」で「記憶に刻まれるような言動をしたことがない」トッププレーヤーもめったに見当たらないのだ。

 カラガーと、ベッカムと同じ41歳(2月18日に42歳になる)のギャリー・ネヴィルは、現役時代からそれぞれの所属クラブでも筆頭格の「口が立つ」スポークスマンとして有名だった。2人が現在、評論家として活躍しているゆえんでもある。また、ベッカムとジェラードはそれぞれ「キャプテン」として、オーウェンもそれに次ぐ存在として、雄弁に語る機会は多々あった。

 ところが、ランパードが、私生活はもちろん、チェルシーや代表について、何らかの持論や感想などを述べたりしたどころか、メディアからそれを求められたりした記憶となると、まったくといっていいほど思い当たらない。あるいは、少なくともそれなりに騒がしい話題を提供したらしい節がない。

ブレークリー(左)と2人の娘 【写真:代表撮影/ロイター/アフロ】

 ご存じだろうか。ランパードの私生活には、上記5名中、最もゴシップ紙が飛びついてしかるべき事件の経緯があったことを――。彼にはスペイン人のモデル、エレン・リベスとの間に2人の娘がいるが、それはまだ2人が婚約中の出来事だった。ところが、2人目の娘が産まれた2年後、某TV司会者との関係が明るみに出て、結局、彼はその女性、クリスティーン・ブレークリーと2015年に結婚している。その過程では、ラジオ番組で「ランパードの不実」をネタにしたDJのもとに怒鳴り込んだとか、その際にランパードが「全力で家族(エレンと2人の娘)を守ってみせる」と言い切ったというエピソードも伝わっている。

 それなのに、単なる憶測のうわさだけを頼りに何かとパパラッツィの標的にされてきたベッカムに比べて、ランパードの「二重恋愛スキャンダル」について、庶民やファンがことさらに騒いで眉をしかめたという話は聞かなかった。なぜなのか。

 仔細は明らかにされていないが、筆者には思い当たることがある。それは、フランク・ジェイムズ・ランパードという、一個の人格が発散させる「男気」だ。表面的には矛盾しているようでも、2人の女性(と2人の娘)に対する硬派な愛情の責任の証しが、一連の言動に宿っていたことを、当時の人々が理解したからだと思う。

 そして、それは「寡黙」で「すべからく行動で証明する」という、彼の本質的性向とも相通じるものがある。フランク・ランパードとは、男気を絵に描いたような個性なのだ。なるほど、彼のプレースタイルと実績を考えてみれば確かにうなずけるものがあるではないか。

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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