京都記念、マカヒキ依存症対策 「競馬巴投げ!第138回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

「理想のギャンブル家庭」

[写真1]アクションスター 【写真:乗峯栄一】

 カジノ法案が通って「ギャンブル依存症対策が必要だ」などと叫んでいる人がいるが、最も必要なのは「ギャンブル依存症対策家庭への対策」である。

 冷静に自分のことを振り返ってみると、馬券購入にとって最大の壁はやはり「家」だ。

 ぼくは前から「理想のギャンブル家庭」というのを提言し続けているが、いまだにまったく実現の気配がないのは寂しい。

 日曜の朝、夫が靴を履いていると妻のリクが慌てて駆け寄ってくる。

「お父さん、また黙って出掛けようとしたんじゃありませんか。ゴホゴホ」

 妻は咳き込みながら非難の目を向ける。リクは長年肺を患っている。

「お前を起こしては悪いと思って」と夫は歯切れが悪い。

「そんな、わたくし怒りますよ」

 そのとき病弱の妻は夫のポケットから財布を抜き取る。

「お父さん、おカネがないときは言って下さいって、あれほど言ってるじゃないですか。こんな小銭だけで」

「しかしお前、我が家にはもう余裕が」

「あなた、あなたはなぜそのようなことを言うのですか。あなた、それでも武士ですか。ちょっと待っていて下さい」と妻はいきなり奥からカネを持ってくる。

「これはお前、新之助の給食費ではないか」

「新之助も武士の子。父上の大望のためなら飢え死にしてもよいと申しております。ゴホゴホ」

 差し出された茶封筒にはリクの吐いた鮮血の跡が見える。

「あなた、これでどうか存分のご勝負を」

 ああ今日も淀に血染めの万札が舞う。

 と、こんな家庭になれば理想のギャンブラーが育つし、最強のギャンブル依存症対策にもなる。

楚々としたバクチ打ちになりたい

[写真2]スマートレイアー 【写真:乗峯栄一】

 わが部屋には「強く明るく正しい競馬」という張紙がある。

 いつもそう願っている。薄皮破って一段高い所へ行きたいといつも思っている。“当て続ける”ということではない。知識を網羅した“歩く競馬辞典”になることでもない。そんなことではない。予想する時も、馬券買う時も、当たった時も、外れた時もしなやかさと強靭さを持つ、楚々としたバクチ打ちになりたいと思っている。でもこれが難しい。

 最大の障壁はやはり家庭である。家族を振り捨てたり、独身でいればいいということではない。家庭というもの、持つも地獄、捨てるも地獄である。

「オレは天涯孤独の遊び人。妻子? そんなもの、ハナっから縁がねえよ」と吹聴する者は、ぼくから言わせれば敵前逃亡である。

「家庭」とは千日回峰行の阿闍梨を苦しめる比叡山のツタカズラだ。苦しいけれど、その苦しさがあるからこそ初めて大僧上になれる。日々その地獄のような愛憎やエゴイズムの中で研鑽してこそ真のバクチ打ちである。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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