センバツを決めた履正社を支える4番打者 “全国区”の主砲・安田の存在が励み

沢井史

吉報にも引き締まった表情崩さず…

今大会屈指のスラッガーとして注目を集める安田(写真左)と強力クリーンアップを形成する若林 【沢井史】

 校内の中庭に集められた選手たちに、3年ぶりの“吉報”が届いた。喜びをはじけさせたナインの中で、いつもと変わらない表情を見せたのはキャプテンの若林将平だ。

「(センバツ出場決定に)まだ、実感がないんです。というか、秋に結果を残して今度は自分たちが目標にされるので、うれしいというより、これからもっと頑張らないといけないと思います」

 既に注目を集めている高校通算45本塁打を放つ安田尚憲の後ろを打つ履正社高の主砲で、安田と並んで注目が集まる右の強打者だ。だが、この日は自分を戒める言葉を並べ、引き締まった表情を見せる。昨夏に続き2度目の甲子園となるが、今年に懸ける並々ならぬ決意の強さもうかがえる。

1年秋からベンチ入りもケガの連続

センバツ出場の報告を受ける履正社ナイン 【沢井史】

 初めてベンチ入りしたのは1年の秋。背番号7をつけ初の公式戦を迎えるはずが、大会中に肩痛を発症した。ヒアルロン酸を注射するなど治療を重ねながら様子を見ながら秋が終わった。ようやく快方に向かい、冬練習が本格的に始まった12月。今度はロングティーの最中に「(バットを)振った瞬間に“バキッ”っていう音がしました」と胸に激しい衝撃を覚えた。

 息ができないほどの痛みに襲われ、診察の結果、第一肋軟骨を骨折していることが分かった。しばらくは練習どころか走ることも出来なかったが、同時に右ひざを痛めるなど満身創痍の冬を過ごした。春の大阪大会直前にようやく実戦復帰を果たしたが、冬の練習でたくましくなった仲間たちを見て愕然とした。

「自分は冬に思うような練習が出来なくて、あの時もみんなについて行くのが精いっぱいでした。でもみんなはちゃんと力をつけていて、(自分が)置いていかれているような気がして……」

 秋の段階でホームラン数がほとんど同じだった同学年の安田は、鋭いスイングから長打を量産していた。次第に“2年生スラッガー”として注目を浴びていくライバルの背中がだんだん遠くなっていく。だが、若林も春の大阪大会以降のメンバー外の選手たちで形成した練習試合でホームランの数が増えていた。

センバツV腕に手が出なかった2年春

 その結果を見込まれ、春の近畿大会では背番号13をつけようやく戦線復帰を果たす。だが、全3試合に出場したものの、結果は4打数無安打。練習試合と近畿大会のレベルの差を痛感させられた。

「決勝では(同年センバツ優勝投手の)智弁学園高の村上(頌樹)さんが投げていたんですが、まったく手が出なくて。戻ってから、岡田(龍生)先生(監督)に“近畿大会でベンチに入れたのにこんな結果で……”って結構厳しいことを言われて、かなり心にガツンときました」

 やっと掴んだ実戦出場の機会の中での試練。その結果があまりにも悔しくて、“取り返したい”という思いだけで夏に向けバットを振った。夏の大阪大会も背番号13だったが、全8試合に出場。4回戦の東大阪大柏原高戦では満塁ホームランを放ち、打率は5割を超えた。

「あのホームランは自分の人生を変えてくれました。ここ何カ月もケガで苦しい思いしかしていなかったけれど、あの1本で注目していただくようになって、すごくありがたかったです」

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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