「臨機応変」が世界一奪還のキーワード 侍ジャパンがWBCで目指す野球

中島大輔

大会中は小久保監督の笑顔を何度も見られるだろうか 【Getty Images】

 壇上で質疑応答する小久保裕紀監督の言葉に耳を傾けながら手元のノートにメモした4文字が、数分後、図らずも指揮官本人の口から語られた。

 臨機応変――。これこそ、3月に開幕する第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、侍ジャパンが2大会ぶりの優勝を果たせるかどうかの鍵となる。

 メジャーリーガーの選出は青木宣親(アストロズ)のみとなったものの、いずれも日本球界を代表する27選手が選ばれた(残り1人は後日発表)。前回王者のドミニカ共和国、初優勝を目指すベネズエラ、アメリカと並び、優勝を狙えるだけの面々がそろっている。

ブルペンに厚みを持たせた投手陣

今回が代表初選出のオリックス・平野。フォークボールを武器に侍の新たな戦力となる 【写真は共同】

 本番に臨む27選手は事前報道通りに落ち着いたなかで、個人的に最も注目していたポイントは、投手陣の割り振りだ。2016年11月の強化試合でメキシコ、オランダと対戦した後、小久保監督は先発投手と第2先発を合わせて8人にするか、7人にするかを考えると明かした。結果、先発の人数を7人に減らし、ブルペンに厚みを持たせている。球数制限のあるWBCでは継投がポイントになることに加え、15年11月の「世界野球プレミア12」では中継ぎのスペシャリスト不在が響いて敗れた反省を生かしてのことだろう。

 ブルペンの選考ポイントについて質問すると、指揮官はこう答えた。

「右、左の少し変則と言いますか、サイドスロー気味の秋吉(亮=東京ヤクルト)と宮西(尚生=北海道日本ハム)は軸に考えました。平野(佳寿=オリックス)に関して言えば、去年の後半、交流戦明けからのピッチングも含めてフォークボールは武器になるというところで選びました。牧田(和久=埼玉西武)にしても千賀(滉大=福岡ソフトバンク)にしても、臨機応変に後ろのほうも行けるピッチャー。幅広く使えるという選考になりました」

 臨機応変。小久保監督が口にしたこの言葉こそ、国際舞台で勝利するためのキーワードだ。たとえば第2回WBCでは、当初先発だったダルビッシュ有(現レンジャーズ)が抑えに回り、優勝に貢献している。短期決戦では事前の想定通りに行かないことが少なからずあり、その場その場の対応力が要求される。

修正力がものをいう国際大会

千賀をはじめ、普段とは違うボールへの対応は投手陣に引き続き望まれる 【Getty Images】

 実際、選手たち自身、そうした戦いぶりが必要だと感じている。先の強化試合で、秋山翔吾(西武)が興味深い話をしていた。その内容は打者について語ったものだが、投手についてもまったく同じことが当てはまる。

「監督から最初のミーティングで、『ここ(強化試合)でやれないことはWBCの本戦でもできない』と言われました。それを自分なりに考えて、ここはつなぎたい場面だからボールを見ていくという考え方ばかりでは先に進めないというか、結果を出し切れないんじゃないかなと思いました。振りにいった上で、修正していく力も必要かなと思っています」

 グラウンドで相手と肌を合わせて感じ取り、対応策を即座に考えて実践する。それが秋山の言う「修正する力」だ。データが少なく、ほとんどが初顔合わせとなる国際大会では修正する力を持った者こそ勝者となり、それができなければ瞬く間に敗者となる。

 選手たちに求められる臨機応変さは采配についてもまったく同じで、多士済々のブルペン陣をベンチはどれだけ生かすことができるか。的確に調子を見極め、適材適所の起用が不可欠だ。

 先発は菅野智之(巨人)と則本昂大(東北楽天)、大谷翔平(日本ハム)、石川歩(千葉ロッテ)、第2先発は藤浪晋太郎(阪神)、増井浩俊(日本ハム)、千賀、抑えは平野と松井裕樹(楽天)が中心と構想されているが、調子の上がらない場合や滑るボールに対応できない者がいた際、ベンチがどれだけ柔軟に配置転換できるか。小久保監督を中心とした首脳陣の対応力が求められる。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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