元NBAフロントはBリーグをどう見たか 優秀な選手育成には「時間と努力が必要」

永塚和志

手をこまねいていても状況は変わらない

圧倒的な知名度を誇る田臥勇太(写真)以上の選手を今後、日本バスケ界は輩出できるか 【写真:アフロスポーツ】

 ワッサーマン(またその他の大きなマネジメント会社)が日本に本格参入してくることになれば、ギャレットのような、あるいは彼以上の優れた選手がBリーグに来るかもしれない。それ自体は試合のレベルや人気を上げることにつながる。一方で、ただ安直に外国人選手を連れてくるだけがリーグのためになるかと言えばそうではない、とデイヴィッド氏は語気を強めた。

「良い選手を獲得してくるだけがリーグの質を上げる唯一の道というわけではありません。ホセ・カルデロン(ロサンゼルス・レイカーズ)やパウ・ガソル(サンアントニオ・スパーズ)、リッキー・ルビオ(ミネソタ・ティンバーウルブズ)などを輩出したスペインなど、世界には自国から優秀な選手を生み出した国は多くあります。ただそうするためには時間と努力が必要です。私は、日本にも同じことができないという理由が見つかりませんし、今回来日しリーグがうまくいっているのを見てよりその思いを強くしています」(デイヴィッド氏)

 日本ではほぼ20年間、田臥勇太(栃木ブレックス)の名前が突出して最も名の知られた日本人選手であり、翻せば他に著名な選手を生み出すことができていない。また、リーグの人気拡大を左右する男子日本代表が40年間も五輪出場から遠ざかっているなど、国際大会では苦戦が続き東京五輪への出場も危ぶまれる。こうした状況の打破は容易ではないように思われるが、ひとつ言えることは、手をこまねいていてもこの状況が変わるわけではないということだ。

 試合の質を向上させ、リーグおよびクラブの経営を安定させることで収益を上げ、それを選手の年俸や試合の興行としての魅力アップに還元する、そういった努力が求められる。デイヴィッド氏はメディアとの関係についても、「ただ『取材してくれ』とお願いするだけではなく取材したくなるような仕掛けが必要」と積極的な姿勢で臨むことが肝要だと述べた。

日本でバスケがメジャー競技になるために

 デイヴィッド氏のBリーグの対する印象は、総じてポジティブなものだった。インタビューは12月16日の「アルバルク東京vs.レバンガ北海道」(国立代々木第二体育館)の試合翌日に行ったが、試合内容や運営、エンターテインメント面などで「非常に強い印象を受けた」と話した。観戦した試合は計3試合ほどでしかなかったものの、滞在した約1週間の間に非公式ながら大河正明コミッショナーやその他リーグやクラブ関係者らと面会し、日本のバスケットボール界に対する理解を多少なりとも深めることができた。それと同時に、「彼らのこのリーグをより良いものにしたいという気概を感じた」と言う。

 言わずもがなだが、NBAとは人気も実力も天と地ほどの差がある現状のBリーグ。実際、ワッサーマンという世界的なスポーツエージェンシーの要人が来日したからといって、すぐに名の知られたスター選手が日本に来るということはないはずだ。同社としてもビジネスにならなければBリーグに積極的に絡んでくることはないだろう。デイヴィッド氏がA東京の試合を見て「強い印象を受けた」と話したのも半分は社交辞令と取るべきだ。

 日本でプロバスケットボールがメジャーになるには、競技力の向上とともに興行的な成功が永続的に続かなければなし得ないことで、それを現時点で占うのはまだ難しく、早計だ。

 しかし、少なくともデイヴィッド氏のような、NBA球団のフロントと世界規模のスポーツエージェンシーでの貴重な経験を持つ人物がいるワッサーマンという会社が、日本のバスケットボールマーケットに関心を持っていることは事実である。それは間接的に、Bリーグの将来性の可能性を示していることになるのではないか。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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